足踏みラバーズ


 ぱたぱたと逃げ去る女の子の背中を、蒼佑くんが追いかける場面が、切り取られたようにエンドレスで流れている。



「ったく。頭、痛いよ……」



 こんな日には、すぐに寝て忘れ去りたい。

けれどそれは叶わなくて、日が変わっても目は開いたままだった。




一服しようとキッチンに向かうと、煙草がないことに気づいた。

そういえば、蒼佑くんとつき合ってから、自分より吸う頻度の少ない彼に合わせるように、いつの間にか吸う本数も減っていた。


空箱をぐしゃっと握りつぶして、ごみ箱に投げつける。ガコ、とゴミ箱の淵にあたって外れてしまった。そのまま蹴ってやりたかったけど、素直に拾ってゴミ箱に入れた。




こんなときでも感情のままに動けない、そんな自分がじれったい。

行かないでと、泣きじゃくって縋ったら、蒼佑くんはどうしただろうか。

想像をしてみたところで、泣いている女の人……美由紀さんを放っておくのもいただけない。




それじゃあ、今の実態が正解、ってことになるのかな、と呆けていると、涙が乾いてぱりぱりになった頬に、再び涙が伝った。





 酒でも飲まないとやってられない。

そう思って、深夜に缶ビールを空けた。お酒は好きなはずなのに、350mlのビールも飲み切れなくて、ますます頭痛に拍車がかかる。大人しくするしかない。

やけ食いもやけ酒もできるようなたまじゃなくて、お湯を沸かして温かいお茶を飲んでベッドに身を投げた。



「7時か……」



んん、と腕を伸ばす。寝れないなんて言いつつも、しっかり3時間ほど寝ていたようだ。



「うわっ、目パンパンだー…」



 みっともない、とお風呂の蛇口をひねった。


今日は早く起きたから時間に余裕がある。朝風呂なんて贅沢なこと久しぶりだ、なんて傍から見たら立ち直りがずいぶん早いと思われそうだ。


それで、いい。自分の感情をコントロールできるのが私の長所のはずだ。

何があっても、上手く笑って、乗り切れる。



熱い湯船に浸かると、頭が徐々にはっきりしていく。まだクリスマス……もうクリスマスか、なんてごちゃごちゃと考える自分の頬を引っ叩いた。



< 130 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop