足踏みラバーズ
ぱたぱたと逃げ去る女の子の背中を、蒼佑くんが追いかける場面が、切り取られたようにエンドレスで流れている。
「ったく。頭、痛いよ……」
こんな日には、すぐに寝て忘れ去りたい。
けれどそれは叶わなくて、日が変わっても目は開いたままだった。
一服しようとキッチンに向かうと、煙草がないことに気づいた。
そういえば、蒼佑くんとつき合ってから、自分より吸う頻度の少ない彼に合わせるように、いつの間にか吸う本数も減っていた。
空箱をぐしゃっと握りつぶして、ごみ箱に投げつける。ガコ、とゴミ箱の淵にあたって外れてしまった。そのまま蹴ってやりたかったけど、素直に拾ってゴミ箱に入れた。
こんなときでも感情のままに動けない、そんな自分がじれったい。
行かないでと、泣きじゃくって縋ったら、蒼佑くんはどうしただろうか。
想像をしてみたところで、泣いている女の人……美由紀さんを放っておくのもいただけない。
それじゃあ、今の実態が正解、ってことになるのかな、と呆けていると、涙が乾いてぱりぱりになった頬に、再び涙が伝った。
酒でも飲まないとやってられない。
そう思って、深夜に缶ビールを空けた。お酒は好きなはずなのに、350mlのビールも飲み切れなくて、ますます頭痛に拍車がかかる。大人しくするしかない。
やけ食いもやけ酒もできるようなたまじゃなくて、お湯を沸かして温かいお茶を飲んでベッドに身を投げた。
「7時か……」
んん、と腕を伸ばす。寝れないなんて言いつつも、しっかり3時間ほど寝ていたようだ。
「うわっ、目パンパンだー…」
みっともない、とお風呂の蛇口をひねった。
今日は早く起きたから時間に余裕がある。朝風呂なんて贅沢なこと久しぶりだ、なんて傍から見たら立ち直りがずいぶん早いと思われそうだ。
それで、いい。自分の感情をコントロールできるのが私の長所のはずだ。
何があっても、上手く笑って、乗り切れる。
熱い湯船に浸かると、頭が徐々にはっきりしていく。まだクリスマス……もうクリスマスか、なんてごちゃごちゃと考える自分の頬を引っ叩いた。