足踏みラバーズ
「さっ、佐伯さぁん! どうしたんですか、その目!?」
顔を見るなり、駆け寄ってくる相田さんに、しぃー! と、口に人差し指をあてて、静かにしてとアプローチした。
それを知ってか知らずか、声を潜めてくれたけど、動きが大きくて、寂々たる状況には程遠くなってしまった。
「ちょっと、いろいろありましてね……」
「いろいろってなんですかぁ!?」
ぷんすか怒る相田さんを軽くあしらったつもりでいたけど、意地でも話を聞いてみせる! そんなメラメラ燃える闘志が、わかりたくないのにわかってしまう。
勘弁してよ、と思いつつ、ちょっと話を聞いてもらいたいというエゴが見え隠れしていた。
相田さんにはさわりだけ簡単に話したけれど、彼女はひどく察しがいい。
話し終える前に、「ごめんなさい、こんなところで聞くべきじゃなかった」と、目を潤ませる相田さんを目の前にして、思ったよりもずっと彼女に救われた、そんな気がした。
飲みに行きましょう、話聞いてくださいよ〜と甘えてみたらいたら、今日は仕事終わりにまーくんと会うから無理ですぅ〜、と飄々と切り返されて、いつの間にやら朝よりずっと、すっきりとした心持ちになった。
「お疲れさまです〜。あれっ、佐伯さん、目どうしたんすか」
たらこみたいですよ、と、今しがたその話は終えたはずなのに、ちょっと触らせて下さい、と冗談を言ってのける。
ばか、といつも通りに笑って見せたけど、相田さんがわかりやすく、そのことに触れちゃだめ! と、不器用なフォローに尚のこと笑みが漏れた。
「……別れたんすか?」
「今、相田さんに触れちゃだめって言われたばっかりでしょうが」
「……すみません」
思いのほかシュンとしてしまって、私のほうが焦ってしまう。
「中島くんは気にせず仲良くしてよ。あ、蒼佑くんだけじゃなくあたしともね!」
肩をバシっと叩いたら、はい、すみません、と言わせてしまった。
ああ、そうか。いつも通りって、ふられたとかそういうのもひた隠しにするべきだったのか、と思考回路の浅さに悩みを覚えた。