足踏みラバーズ
クリスマスに残念ですね、と話しのたねにされてしまっていた。
クリスマスを年末も変わらず仕事をしている私たちみたいな人間には、ちょっと笑える不幸なネタのように捉えてくれるあたりが、大人な職場だな、と感じられた。
離婚だったら笑えないよな、と私の発想の上をいくお言葉をいただいて、やはり人生の先輩は言うことが違うな、と妙に納得してしまった。
18時を回ると、ごたごたしていてお昼を食べていないことに気づいた。
帰るにはまだ少し早い。きりのいいところまでは仕事をやりたい。
そんな悩みに応えるには、コンビニでご飯を買ってくるのが一番だな、とエレベーターに向かった。
「あれっ? 相田さんお帰りですか?」
「そうなんですよぉ! 早く帰るために、早く出社したんですからぁ」
なるほど、とエレベーターに乗り込む。相田さんが私ちょっとお化粧直してから行くのでぇ〜、と、その場で別れた。
コンビニでおにぎりとサラダを買った。
まだクリスマス一色の店内は、ケーキがいっぱい並んでいて、自分の家で一口も食べられないまま綺麗な形を保っている小さなホールケーキを思い出してしまった。
小さな袋をぶら下げて会社に戻ると、エントランスでばったり恵美と会ってしまった。恵美も驚いたようで、目をぱちくりとさせている。
あれから少し気まずくて、飲みに行くこともなくなってしまっていた。何か言わなきゃ、この黒く淀んだ空気を打破しないと。
「な、なんか久しぶりだね」
話しかけても応答がない。それどころか、淀みが増している気がする。
「あ! そうだ! えっと、もう帰り? 今日は瑞樹と?」
共通の話題がすぐに見つけられなくて、何の気なしにこの話題に触れてしまった。彼女にとって地雷も甚だしい、といったふうだった。
ぱちくりとさせていたその目は、途端にキッと睨みつけるような鋭い眼差しに変わる。
「……ったのに」
賑わうエントランスで、小さな声が聞き取れなかった。え? と、恵美に近づいて耳を傾ける。
「百合子さえいなければよかったのに!」
振り上げられた彼女の手が、私の頬を掠った。彼女の凍てつく目に、足がすくんで動けない。
キャーッ、と悲鳴が響き渡る。パシン、と乾いた音が頬をつく。
「佐伯さんっ!」