足踏みラバーズ
ほんの少し動揺に、さらなる問題を突き付けてくれる。
良かれと思って言ってくれているのが分かったから、咎めることはできなかった。
「今蒼佑くんに会ったら、治るもんも治らないって」
突っ張る頬をできるだけ緩ませて言うと、中島くんは俯いてだんまりとしてしまった。
着きましたよ、と優しそうな運転手さんが口を開く。
一方通行の道が工事で通り抜けられないから、少し手前で降ろしてもらう。結局、中島くんも一緒に降りてきてくれて、マンションまで着いてきてくれた。
「あの人、具合でも悪いんすかね」
怪しくないすか、と過敏に警戒心を見せる中島くん。
マンション前のへりに腰かけ、下を向いた顔は黒い髪に覆われて見えなかった。けれど、薄暗くてもわかるまっすぐな髪の毛とすらっとした体つきは、すぐに誰なのか検討がつく。
「あれ? なんでいるの?」
知り合いっすか、と肩の荷を下ろす中島に目もくれずに、一心不乱に距離を詰めてくる瑞樹。
カバンを無造作に放り出して、大きな体に閉じ込められた。
びっくりしてあんぐりと口を開けている、置いてけぼりの中島くんが、説明を求めてきていたけど、そんなの私が聞きたい。
「えーっと、この人、高校の同級生なんだけど」
なかなか腕の中から逃れられなくて、顔だけ中島くんのほうに向けて言った。
はてなマークを頭にいっぱい浮かべている中島くんが、少しだけ怪訝な視線を送ってきて、仕方ない、この子にはいろんなことがばれちゃったな、と小さくため息をついた。
「……元カレだから」
怪しくないから、と中島くんに告げると、そうでしたか、とその場を去ろうとする。
会社に戻ったら、どんな状況になってるか連絡ほしい、と頼むと、ぐっと親指をたてた。彼の背中が小さくなるのを見つめながら、ぽそっと嘆く。
「ほんと、クリスマスに縁がないなあ……」