足踏みラバーズ
クリスマスイブを一緒に過ごしたいと言われた。
恵美はすっかり俺とつき合っていると思っているようだ。
半分は脅しみたいなものだったけれど、結果的には彼女とするようなことをしてしまっているのだから、自分にも非があるのだと理解している。
最近は百合子にも会っていないようだし、話を聞いても危害を加えることもなさそうだ。
あれだけアイツを盾にして、いい思いをさせるためにつき合うのも限界だ。せっかくつき合っていると思われているのだ、これを期に別れを切り出すというのも悪くない。
恵美という女は嫉妬深さを超えて、ストーカーまがいの行動に出ることもよくある。
俺のことが好きだから心配だと、知り合いの周辺をうろちょろされても迷惑だ。自分の口から話す、と説得するとすんなりと受け入れてくれた。
依存するタイプなのだろう、相手のことも逐一把握していたい、そんな彼女が昔の自分と重なって、はっきりと否定することができなかった。
俺も百合子にこんなに負担をかけていたのだろうか。
愛情は行き過ぎると、もっとどろどろした怨念にも似た感情に変化を遂げるらしい。
イブはどうする? と、浮かれた恵美に尋ねられた。
繁忙期で仕事が終わるのも遅い。直帰するつもりでいたが、そうもいかないようだ。
外出は断念したのか、うちで豪華な手料理をごちそうする、と張り切られてもしらけるだけだ。
気分を損ねるのも避けたいがために、了承したが、自分は本来潔癖の癖がある。つり革が触れないとかはないけれど、身内や気の置けない友人を除いた第三者と鍋をつついたりはできない。
他人が調理していると思うと、あまりいい気分ではないし、プロにまかせておけよ、と懸念してしまう。
ミートソースがちょっとぼけた味がするとか、カレーによくわからない隠し味を入れるやつだとかは、日常的に料理をしていないことが透けて見える。
俺の性格がひねくれているのかもしれないが、受け入れるのには無理がある。
けれどイブを区切りとして、こいつと関係を断つと決めたのだ。その日までは、何が入っているのかわからない、泥みたいな料理だって食ってやる。
恵美、と別れ切り出す準備はできていた。なるべく事を荒立てないように、落ち着いて口を開いた。
「こういうの、今日で終わりにしたいんだけど」
なんで? と動揺する反面、ついに来たかと、幾分か落ち着いた様子だった。