足踏みラバーズ
「やっぱり、私じゃだめだった?」
やっぱりも何も、初めからお前とどうこうしようなんて思っていない。思い込みも甚だしい。こんな関係で、本物の関係になれると思っていたのだろうか。
「……悪い」
俺も同罪だ。曖昧な関係を続けたことを、詫びる。
見る見るうちに、涙が零れる恵美を目の前にしても、心が冷え切っている。
この陳腐なB級映画みたいなくだりはいつ終わるのだろうかと、そればかり考えていた。
「百合子じゃなきゃ、だめなの?」
「……お前には関係ないだろ」
突き放した言葉は、案外響いているようで、聞いてもいない御託を並べていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
百合子のことを盾にしたのは謝るから。脅すつもりなんてなかったの。百合子のことを持ち出せば、つき合うきっかけになると思ったの。それだけなの。
そうでもしないと、私のほうを見向きもしてくれないじゃない!」
女はすぐに感情的になる。理論で考えたりしない、本能みたいな第六感を駆使して持ち出す言い訳は、尊敬に似た感情さえ芽生えて嫌いじゃない。
けれど、感情が剥き出しになって、ヒステリックになるのはこの上なく、しんどい。
「どうして百合子じゃなきゃだめなの? 長い付き合いだから? 顔が可愛いから? いつもにこにこしてるから?
あんな化粧も服もろくに気にしてないあの子より、私のほうが瑞樹くんと釣り合うように努力してる!
人畜無害そうな顔して、ああいう子のほうが何考えてるのかわからないんだから!
仕事だからって男と2人で会ったりしないし、媚売って笑いかけるようなことはしない!
ずっと瑞樹くんのことだけ一番に考える! ぶりっこのほうがよっぽどマシよ! 百合子のどこがそんなにいいの!?」
はあはあと息を乱して、堰を切ったように話し出す。
「……すげえな。お前、百合子と友達だろ」
「……」
俺に近づくために百合子を利用したと白状したようなものだ。口を閉ざして、しきりに視線を泳がせる。
「今ここで、俺の連絡先消してくんねえか」
嫌だと顔を左右に振って、応じようとしない。まあいい。ならばこちらが番号を変えるだけだ。
「本当にだめなの?」
「そうだな、今日で終わりだ。こういうのはもう辞める」
「……瑞樹くん、ごめんなさい」