足踏みラバーズ
無造作であまり手を加えていなさそうな短い黒い髪の毛と、Yシャツの上からでもわかるくらいの胸板の厚さが、スポーツをしていたのかなと思わせる。
一方の男性は、こちらの男性と違って、少し線が細い印象を受けた。
ふわふわとした柔らかそうな髪の毛は、所々ぴょんぴょんとはねていて、長めの流した前髪がよく似合っている。よく見ると、ぴょこっと後ろで一つに結わえている。丸っこくてくりくりした目は、犬っころのように可愛い。
がたいはよくはないけれど、捲った袖から見える筋張った腕は、女性らしさとは程遠い、男の人のそれだった。
「女子会のところ急にごめんね」
黒髪の男性が優しい口調で詫びの一言を入れてくれた。
咄嗟に「全然です、いつも恵美から話を聞いていたので会えて嬉しいです」なんてリップサービスをしてしまった。
そう思っていたのは嘘ではないけれど、少し過剰すぎたかな、ともやもやしてしまっていた。
「いや、いきなり言い出したのはこっちだからさ。そんな畏まらないでよ、ね」
フォローを入れてくれるその様子は、なぜか恵美と少し重なって見えた。
「百合子、これ創ね。いとこなの」
「あっ、なるほど。どうりで恵美に似てると思った」
口を揃えてやめてよ、似てないからと抗議されて、そっくりだなと思ったけれど、その言葉を飲み込んで笑みを浮かべた。
「こっちが蒼佑ね。俺の大学の友達」
創くんがもう一人の男の子を紹介してくれた。
可愛い顔から、勝手に社交的な人だと印象づけていたけれど、これまでの口数はずいぶん少ない。
「蒼佑くんていうんですか。えっと、上の名前は……? 私は、佐伯百合子と言います」
「高梨蒼佑です。あ、でも蒼佑くんのほうが嬉しいな。百合子ちゃん」
「……蒼佑くん」
「うん、ありがと」
——チャラい。第一印象はまさにこれだ。
人当たりは良さそうだけど、なんだろう、そりが合わなさそうな気がしている。そんなふうに一気に募る不信感。
やっぱり、来るべきではなかっただろうか。
一言しか話していないけれど、心の中で「苦手」と烙印を押した。