足踏みラバーズ
部屋の前まで着いていくと、頬は痛くないかとか、怪我ってどれくらいの傷なんだとか、聞きたいことは山ほどあったけれど、ちょっと疲れちゃったから、立ち話とかできない、と眉を八の字にさせて謝られた。
それなら部屋に上がろうかと、当然のように考えていたのだが、蒼佑の顔がよぎって口をつぐんだ。
彼氏はあいつだ、不誠実なことはやめようと、つい先日決心したことが脳裏に浮かんで、ドアノブに手をかけた。
「蒼佑、まだ来てねえの?」
「……そうだね、まだみたいだね」
「俺帰るけど、なんかあったら連絡しろ。ま、蒼佑いるし丈夫だろうけど」
「ん。ありがと」
迷惑かけてごめん、とドアの閉まる間際に聞こえた声は、絞り出したみたいに掠れた声だった。
振り返って、そんなことはないと抱きしめてやりたかったけど、ぐっとこらえて友人に託そうと決めた。
年末年始を控えて、仕事納めで慌ただしい。
ここ数日は、仕事に専念している間だけは百合子ちゃんのことを思い出さずにいられるから、ただただ社会人としての義務をまっとうした。
イブからまだあまり日が経っていない。
あの日、偶然美由紀と遭遇してしまった。
あろうことか、泣いて逃げ出す美由紀を追いかけて、百合子ちゃんの手を振り払ってしまった。
美由紀を家まで送っていったけれど、泊まることはできなかった。
数年ぶりに実家でイブを過ごしたら、母には遊ぶのも大概にしろと怒られたし、父は母に口答えなんてできないから、すぐに新聞に視線を向けていた。
家族に罵られながらも、自分の部屋にこもった。
聖なる夜になんてことをしたのかと、我に返ったときにはもう遅い。終わったな、と頭の中に思い浮かべた百合子ちゃんは瑞樹と手を繋いでいて、こうなる運命だったのかもしれない、と言い聞かせた。
泣き崩れる美由紀を見たら、追いかけずにはいられなかった。
道中、この初めての元カノとの復縁をするのかと自問自答するも、答えはすぐに出て、時間が経つと振り払ったはずの彼女のことばかり考えてしまっていた。