足踏みラバーズ



 じっとスマホの画面とにらめっこすること一時間。

まだ外は暗いけど、起きている時間ではなくなってしまった。寝られないな、と改めてため息をついた。

しっかりと握っていた携帯が、ぶるっと震えて、連絡がきたことを示していた。




 起きてる?




 一言だけのLINEに既読をつけてしまったら、返事をしなくとも起きている、というのが伝わってしまう。とりあえず画面にキーボードを出したのはいいけれど、何て返したらいいのかわからなかった。

続けざまに新しく通知が来て、




 今部屋に行ってもいい?



と、あたかも近くに来ているような文面だった。

返事のタイミングがつかめない。

手に持ったまま、考えあぐねていると、ガチャッと扉のあく音がして、驚いて携帯を床に落としてしまった。








「百合子ちゃん、ごめん、夜遅くに来ちゃって……」


 勝手知ったる私の部屋に、ひたひたと静かに入ってきて、顔見るなりぎょっとした顔で駆け寄ってきた。



顔にそっと触れてきたかと思えば、「ほっぺ、どうしたの……」と眉間に皺を寄せて、怖い顔をしていた。



家だからって、マスクを外さなければ良かった、とほんの少し後悔をした。

なんでもないよ、と言っても、なんでもないわけないじゃん! とぴしゃりと叱る彼の顔は赤いような、青ざめたような、形象しにくい色になっていた。



「……なんで来たの?」



 それは純粋な疑問で、怒りをぶつけたわけではないけど、蒼佑くんが口を閉ざして、沈黙が流れた。



「……心配、だったから……」




 消え入るような声に、退社間際に中島くんに茶化したような態度をとることができなかった。

心配かけたのは誰だよ、とか、よくのこのこ家まで来たなとか、頭の中には汚い言葉遣いで罵る準備ができていたけど、実際に口に出すことはできなかった。





 一日経っただけで、縫った部分だけじゃなく、ほかの傷も蚯蚓腫れになっていて、傍から見たらきっと痛々しいことだろう。

骨折のほうがよぼど痛いのだと思うけど、大きな怪我をしたことがないからわからない。




とぼけた顔を見て安心したのか、「よかった……」と、蒼佑くんがへたり込んでいた。



「……こんな夜中に、ありがとね」





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