足踏みラバーズ
あの日、抱き着いてしがみついて、やり直したいと縋ったら、きっと蒼佑くんは応えてくれたと思う。
けれどそれではやっぱり納得できなくて、自分から手に届く距離にいた彼の手を掴まなかった。
もし、また振り払われたりしたら、それこそ耐えられない。傷つくのは、どうしても、怖い。臆病だな、と笑ってしまう。
人を傷つけて、自分は傷つきたくないなんて、虫の良すぎる話だ。
蒼佑くんも瑞樹も、大事なところでいなくなる。
クリスマスが大事なんて、そんなにロマンチックな性格ではないけれど、毎年決まってくる行事ごとは思い出さずにいられない。
つき合ってるのに結局ほかの女に靡いて、媚びへつらいをしている人がふるなんて神経を疑う、なんて思っていたけど、そうさせたのが自分だとようやく気づいて嘆いていた。
好き、という感情がよくわからないから、口にしない。
欲もないから、求めない。
下世話な話ではなくて、好きな人というのは、肌を重ねたら安心するものだというのも最近ようやく理解した。
時には色めきだった色欲に変わるのも、特別な存在な証拠で、それらが全部欠けているのに、それでも自分を好いてくれた2人には、頭が下がる。
自然体だと言い訳して、好きになる努力というのを怠った。
恋の仕方もいろいろあると思う。
一目ぼれしたりとか、友人から恋人に関係が変わるとか、つき合ってから好きになるとか。
後者が一番近いのに、つき合ったらつき合ったで、何一つ自分を顧みることがなかった。
感情だって色々だ。
情熱的に求めることもあれば、相手に癒しを求めたり。
そんなのは様々だけど、とにかく一緒いたい人、というのが世間一般でいう恋や愛の感情に近いと思う。
それがいつしか隣にいるのが当たり前になるのも、形が変わっただけで、やっぱり愛情なんだと思う。
蒼佑くんも瑞樹も、浮気がわかったとき、いやだな、とは感じていた。
小さいけれど、独占欲。
ほかの人のところには行ってほしくない、ほんの少しの嫉妬心。
言葉にしなかっただけで、当然伝わっていると思っていたけど、それは驕りだった。
言わなければ伝わらないこともあるし、相手の感情が大きければ大きいほど、小さな感情は見えにくくなる。与えられてばかりで、自分は何も与えていない証拠だった。