足踏みラバーズ



 もう少し早くわかっていればよかった、と思ってももう遅い。

それまで何年も一緒だったのに気づけなかったのは、いつかわかると信じて疑わなかった、自分で作った逃げ道だ。

頭が熱暴走しそうなくらい、頭をフル回転させて思考回路を巡らせた。






 瑞樹のことは、好きだった。ちゃんと、好きだった。



それに気づいて安心した。一番とか、俺だけとか、あの時わからなかった意味も、今ならわかる。




それを知ってもなお、今私の中の大半を占めるのは蒼佑くんで。

瑞樹とつき合うことがなかったら、今も、これからもずっと、流されたまま過ごしていたと思う。



気づいた今だから、こんなにも、蒼佑くんの存在が大きい。









 瑞樹のことが好きだと誤解されたのだろうけど、事あるごとに比較してしまいそうになるのは否めない。



私の中の経験則は、瑞樹と蒼佑くんの2人しかいないし、0か20か1100かの、なんの平均も出せない。

女の人は次の恋を見つけたら、前の人の存在は消えたも同然とドラマでやっていたのをみたけれど、そんなのは所詮空想だ。

こういう女性を否定するつもりはないけれど、大事だった人の記憶は一生残る。






でも、添い遂げると決めた人はやっぱり特別だから、今までの人を肥料にして、今一番大事な人を大事に大事に育てていくんだ。

それがわかったのは、28歳の冬。田舎だったら行き遅れとどやされる歳だった。











 30歳を目前に控えた、29を迎える誕生日を、冬子たちがお祝いしてくれた。



なかなか都合が合わなくて、実際に29を迎える前に集まったのだけど。

平日になることの多い自分の誕生日も、偶然休みの日にあたって、浮かれてかぱかぱお酒を飲んだ。

飲み足りないからと、私の家でみんなと飲み直していると、ベランダに出て一服している間に、いつの間にか瑞樹が上がり込んでいた。



「あれっ、ちょっと誰だよー、勝手に上げたの」

「だって、インターホンが鳴ったから」

「だって、シャンパン持ってきてくれたっていうから」

「だって、おつまみ買ってきたっていうから」



 言い訳する気もない適当な物言いに、プッと笑みが零れる。何それ、と再び酒をあおった。





 ほろ酔いでいい気分だった。ふわふわと夢心地で、瞼が重くて敵わない。









久々に、深い眠りにつけそうだ。


甘い誘惑に勝てなくて、そのまま寝落ちてしまっていた。









「——わっ、寝てた!?」




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