足踏みラバーズ
がばっと飛び起きると、ずいぶん長い時間寝ていたのか、妙に頭が冴えていた。
お腹にあった薄いタオルケットは、寝室のクローゼットの中に入れていたもの。
これをかけてくれた人物をきょろきょろと見回しても、姿がない。
「……帰ったのかな?」
煙草を持って、キッチンに向かうと、うわっ、と声をあげてしまった。
「んあ? 起きたのか。よく寝てたな」
「んー。あたしどれくらい寝てた?」
体を伸ばしたら、ぱきっと骨が音をたてた。ふ、と目を細めた瑞樹に、冬子たちは? と聞きながら煙草に火をつけた。
「帰った」
「ふーん。んんっ、か、帰った?」
煙が気管の中に入って、げほげほと咳が出る。
「……瑞樹、ひとり?」
「見ればわかるだろ」
何食わぬ顔で、紫煙を燻らせていた。さも当然のように断言されると、こちらが口をつぐんでしまう。
「ひとりだったら、瑞樹は部屋にあげらんないって、言わなかったけ?」
「ひとりでなんて来てねえだろ。あいつらと一緒に来たじゃん」
「でも今、瑞樹一人じゃん!」
「あいつらが勝手に先帰ったんだろ」
疑うんなら、LINEでもしてみれば、とそっちのけで深く煙を吐いていた。
その隣で短くなる私の煙草を見ながら、連絡しねえの、とぶっきらぼうに言うから、疑ったりなんてしてないし、と顔に煙をかけてやった。
「ごほっ、おいやめろよ、性格悪ぃな」
ふん、とそっぽを向いてソファーに戻った。
2人の中に流れる空気は、とても別れた元カレと元カノのものじゃないな、と笑ってしまう。瑞樹も同じことを思っていたのか、夫婦みたいだな、とぽそっと囁いていた。
「別に結婚してないけどね。そもそもつき合ってない」
「夢がねえな、お前は」
くくっと笑う瑞樹に心が痛む。
期待させているのだろうか、まだ、私のことを想っているのだと感じさせる態度に、応えられない。いや、応えるつもりがない、と言ったほうが正しいのかもしれない。
瑞樹は確かにいろんなものをくれたけど、情はあっても、恋とか愛とかの感情を持つことはできない。
「……蒼佑と、連絡は取ってねえのか」