足踏みラバーズ
急に真剣な目をするから、とってないよ、と素直に返事をした。
言い方は悪いけど、鍵を強奪したのは自分だ。けれど、それでは切り替えもできなくて、やっぱり必要な人なのだと気づかされた。
傍にいないと変な感じ。空気みたいな存在だとよく言うけれど、正直なくとも死ぬわけじゃない。それでも、隣にいてくれたら安心する。
きっと嗜好品みたいな言い訳に聞こえるだろう。
でもそれが、回りに回って出た答え。それでいいと思う。
長きに渡って考えることもしなかった私が、必死で考えたのがこれなのだから。
——ソファーで体育座りみたいに座るのが癖だった。
例にもれず、いつも通りに座っていると、その距離がどんどんと詰められて、鼻先を掠めるくらいに近づいた。
「瑞樹、離れてよ」
あっと言う間に追い詰められて、逃げ場がなくなってしまう。
「……俺にしとけば」
——天井の逆光が、瑞樹の表情を見えなくさせる。
顔の横についた手が、瑞樹の目に自分が映るほどの近づいた顔が、逃げ道を閉ざして、こっちを見ろと言っている。
「傷、残ったな……」
癒えた頬を優しく撫でる、瑞樹の手。
三本の爪の痕は、うっすらと線が残って、二針の糸を通した痕がくっきりと残っていた。
「……まだ1年も経ってないからね」
頬を撫でる瑞樹の手に触れる。
もうちょっと時間が経てば目立たなくなる、と手を制して起き上がりたい、と意思表示をする。
逃がさない、と、差し込まれた足が、深刻さを物語る。
触れたはずの手は、逆に動きを封じられて、身動きが取れない。
瑞樹、と声をかけても、止める様子は全くもない。くたくたになったTシャツは、いとも簡単に肌をさらす。
手品みたいにするりと外された下着は、女性の膨らみの唯一の防御壁。冴えた頭は、ヒートオーバーするでもなく、甘いムードは微塵もない。
「泣いたりしないのな」
「……やるの?」
問いかけには答えずに、無言で下に手をかけた。
「……さすがにそれ以上やったら怒るけど」
「……」
「瑞樹」
たっぷりの沈黙のあと、カチャカチャとベルトを外す音がする。
「……ゴムつけないでやるか」
はあ? と呆れかえって出た言葉は、まぬけなもので、とてもじゃないけど、今、この状況には似つかわない。
何言ってんの、ともっともな質問を投げかけてしまう。