足踏みラバーズ
「……中に出したら、子ども、できるかもしんねえだろ」
「……笑えない」
「そしたらお前は俺のだろ……」
瑞樹、と堅い胸板を押すと、今度は簡単に起き上がれることができた。
糸が切れたように動きの止まった瑞樹の頭を撫でる。
少しだけ汗ばんで、しっとりと熱い体温が伝わる。
ごめん、と呟くと、ごめんてなんだよ……と消え入るような声だった。
「……瑞樹、ごめん。今までいっぱい迷惑かけた」
「それを言うのは俺のほう、だろ」
俯く瑞樹の横で、ソファーの上に正座をした。
帰れと叫んで、今後一切顔を見せてくれるなと言っても良かったかもしれない。悪い女を演じて、嫌われるような言葉で傷つけてもよかったかもしれない。
でも、瑞樹の前ではきっと、ぼろが出る。
できるだけ、ちゃんと伝わるように、自分の口から話したい。
あのね、と話しかけると、ん、と俯いたまま答えてくれた。
「今、あたしが好きなのは、蒼佑くん、なんだけど」
「……ん」
「高校のときにね、好きってよくわからないって言ったけど」
「……うん」
「今言うのもあれだけど」
「……」
「瑞樹のこと好きだった。ちゃんと、一番、大好きだった」
「…………」
「浮気したとき、嫌だったよ。それでも、やっぱり好きだった。あたしも人並みに嫉妬するんだよ」
「………………」
「……えっと、以上です」
会議の報告みたいな終わり方で、しまらない。
しまらなかったけど、いつの間にか顔をあげていた瑞樹が、ぼろぼろと泣いていて、ぎょっとしてしまう。
瑞樹の泣いた顔を、初めて、見た。
「すごい。泣いてる」
ティッシュを差し出して、ニッと笑みを向けた。
「……お前のせいだろ」
泣いていたけど、笑っていた。
切れ長の目が真っ赤になって、ぐすぐすと鼻をすすって、クールな瑞樹、という印象は程遠いものだったけど、顔をひしゃげた瑞樹はもっと、ずっと魅力的だな、と顔が緩む。
いいもの見た、と茶化してみると、やめろ、と笑って鼻をかんでいた。
「……最後にいっこだけ、俺の頼み聞いてくんね?」