足踏みラバーズ


 悪いのそっちじゃん! とか、つき合ってるのに片思いしてるこっちの身にもなれとか、元はと言えば瑞樹がどうだとか、わけのわからないところまで話が発展して、喧嘩になってしまった。



「蒼佑くん、あたしが好きなの瑞樹じゃないからね」

「それじゃ、誰なの」

「……蒼佑くんだけど。趣味悪い。言わせようとするの」

「だって聞きたいもん。おれがずっと聞きたかった言葉だもん。どんな気持ちで待ってたかしらないじゃんか、百合子ちゃんは。何回聞いても聞き足りない」


 じっと見つめる大きな目は、焦る私を捉えて逃がさない。






「……好きだよ、蒼佑くんだけ、特別の好き」


 砂糖を噛んだみたいに甘い言葉。

恥ずかしくて穴に入りたかったけど、このがらんとした部屋ではそうもいかない。ちょっとした間が気恥ずかしい。

早く反応してくれと、必死に目を瞑った。













 ——おれは、百合子ちゃんのこと愛してる










 普段よりもずっと落ち着いた声は、まっすぐ耳に届いてきて。

優しく触れる唇が離れていくのが名残惜しい。




思い切って自分からなれないキスをしてみたら、唇をこじ開けられた。










「なんか今日の百合子ちゃんえろい。どうしよう、やばい」




 顔を手で覆う仕草が女の子みたいな蒼佑くんに、やらないの? と含みを持たせた意地悪な言い方をした。

だって、今日そんな予定なかったからゴムがないと狼狽える彼を尻目に、蒼佑くんだったらこのまましていいのに、と頭を撫でた。



「……中に出ちゃうもん。絶対。我慢できないよ、おれ」

「……それでいいのに」

「だ、だめだよ! まだ入籍もしてないのに! 百合子ちゃんのご両親に向ける顔が……」




 順番はちゃんとしたいんだよ、なんてどの口が言うんだか。それでもいいと思う私は末期症状だろうか。

見た目に反して、変なとこが固いのもまた愛おしい。



「ふーん。まあいっか。なんか今、幸せだし」








 布団にごろんと寝っ転がると、5分待ってて、と家を飛び出していった。

宣言通り、5分ほどで帰ってきて、小さな紙袋を握りしめていた。



「……まさか、それだけ買ってきたの?」



 カムフラージュの一本のお酒もなく。0.02とでかでかと書かれた箱が、紙袋の中から出てきた。



「だって、これが目的だもん」



と白い歯をこぼして笑っていた。





ムードもへったくれもない。

けたけた笑う私の口を塞がれて、布団に倒され、寄り添ってひとつになる。





 
 気持ちを確かめ合ったら、もう翌日になっていて。


こんな誕生日も悪くない。きっと、一生忘れない。






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