足踏みラバーズ
寒いから、コートの中に着込みがちだけど、ニットなどのトップスの下は二枚まで、できれば一枚のほうがいいとか、ボトムスに関してはパンツは以ての外だ、スカートのほうが可愛いですよ! とアドバイスしてくれたけど、5年くらい前に買った膝が隠れるくらいの丈のデニムのスカートと、マキシ丈の男性ウケなど皆無のスカートしか持っていない。
それだったらワンピース着てください! なるべく明るい色の、と念押しされて、あれやこれやと意見をもらえた。これで服装選びで悩む時間はだいぶ軽減するだろう。
相田さんのことを可愛いらしいと思ったのは、やはり間違いではなかった。
媚びるような特徴的な話し方は千差万別だけれど、素直だし、頼れるところもあるし、それでいて意外としっかりと現実を見ている。そんなことにも気づかなかった私は、きっとまだまだ未熟者だ。
「師匠、また何かあったら相談にのってもらってもいいですか」
「もっちろん! 師匠がいろいろ伝授してさしあげましょう〜」
と、のけぞりながら、えっへんと鼻の下をこする相田さんを見て、ちょっぴり前向きになれた。
——土曜日。
迷いに迷って、白に近いライトグレーのシフォン素材のミディアム丈のスカートと、ざっくりとしたケーブル編みの白いニットを選んだ。
服を気にしすぎて、ついには新しくスカートを買い足してしまった。出番は今日一回だけかもしれないけど、と思いつつ、少し浮かれているのが気恥ずかしい。
明るい色味をと念押しされていたけれど、普段は色味のない服や、ブルー系の明るい色なのかどうかもわからない服しか着ていなかったから、自分で選んだ明るい色はこれが精一杯だった。
職場に着ていくMA-1ではなく、チャコールグレーのチェスターコートを選んだ自分を褒めてほしい。
家まで迎えに行くよ、と蒼佑くんは言ってくれたけど、正直そんなに最初から一緒にいたら疲れるかも、なんて失礼ながら厄介ごとのように考えていたことは口が裂けても言えない。
電車で目的地まで向かう予定だったから、駅で待ち合わせをすることになっていた。多少歩くかも、と思って高いヒールを避けたところに女子力の乏しさが垣間見える。
待ち合わせの駅に着くと、どこら辺にいるかな、と辺りをキョロキョロ見廻す。すると、肩をポンと叩かれた。
「わ、びっくりした! ごめん、待たせちゃった?」