足踏みラバーズ



 どう? といくつか指を指して見せた。



「百合子ちゃん。これとかどうかな?」



 視線の先には、二種類の色違いのペンギンのカップ。かわいくペンギンが一列に歩く模様が、落ち着いた藍白と薄桜の色に栄えている。



「わ! 可愛いね、これ。色もきれいだね。うん、すごい好き!」



と、笑って蒼佑くんのほうを見ると、真っ赤な耳が少しだけ見えていた。



「そ、そうだよね。よかった」



 じゃあ、買ってくる! と、そそくさと逃げるようにレジへ向かってしまった。自分のぶんは自分で買うよー、という言葉は届いていないみたいだった。






 その後はカジュアルレスランで食事をした。

ディナーの時間は、カップルで溢れんばかりの賑わいを見せている。明るすぎず、暗すぎない店内には、観葉植物と花がたくさん並んでいて、ムーディーさがほどよく抜けて、曖昧な関係の二人でも気負わずに過ごせる。

いい感じのお店だな、水族館も食事処も、試行錯誤してプランを練ってくれたのだろうか。

蒼佑くんの優しさが存分に感じられて、出かける前に煩わしいと思っていた自分の頬を引っ叩いてやりたい。






「家まで送らせて」

「えっ、いいよ! そんな。遠回りでしょ?」

「いいの。もうちょっと一緒にいたいから」



 見事なストーレートで返されて、ありがとう……とその言葉に甘えた。

 マンションの前までくると、「これ、水族館で買ったやつ」と、小さな紙袋を差し出された。



「おれ、ピンクのもらっていい?」

「もちろん。あたし青も好きだから。あの、これ、買ってもらっちゃってごめんね。ありがとう」



 「いいんだよ!」と、頬をむぎゅっと両手で包み込まれる。冷たい空気さらされ冷え切った私の頬とは相反して、蒼佑くんの両手は熱く熱を帯びていた。



「また遊びに行こうね、百合子ちゃん」



 ブンブンと音がしそうなほど大きく手を振って歩き出す。名残惜しそうに、1回だけ、振り向いて。









 ——一瞬、キスをされるのかと思った。
 
 部屋に戻り、ぶんぶんと邪念を振り払うと、さっそくお土産の中身を開封した。



「あれ? なんか入ってる」



 一緒に選んだはずのカップの中に、小さな包みが入っていた。なんだろう、すぐに小さな包みの中を開封する。



「わ! え、これネックレスと……ピアス?」




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