足踏みラバーズ
昔から、先生に怒られているときも、怒られている自覚はあるのか、なんて、二重に怒られることはよくあった。
本当は飲みになんて行かないで、早く家に帰ってごろごろしたいけれど、断って悪く言われるのが恐いから、意に反して飲みの席に参加することも多い。
もちろん、そうは見えないように上手くやっているつもりだけれど。
仮面をかぶって、いい人ぶるのが癖になっているのだろう。嫌な性格だなと思う。それに、褒められることなんて一つもしていない。自分で言うのもなんだけど、結構真面目に仕事に取り組んでいる。
今の仕事にやりがいも感じている。けれど、まわりが勝手にいいように解釈してくれているだけ。
この歳で色事にあまり縁がないせいか、浮ついた噂がないからそう見えるだけだろう。悲しいかな、やはりネガティブな分析しかできない。
……しょうもないな。自己否定すら投げやりになる。まあいい。とにかく、残りの仕事を片付けてしまおう。
——こうして、いつもと変わらぬ夜が更けていった。
「お疲れー」
「おつかれさま〜」
カチン、と軽快なグラスの音が響く。
今日は気心の知れている友人3人と、無礼講の飲み会だ。高校の同級生で特に仲の良かった、奏恵、朱莉、冬子の同性だけで開かれた飲みの席は、おのずと開放的な空間になっていた。
プハーっと一気にグラスの半分ほどまで勢いよく流し込む人もいれば、バリバリと豪快にからあげを放り込む人もいて。大和撫子のような女性らしさとは到底かけ離れているが、これが現代のリアルな女性像なのだと思う。……私のまわりでは、というのも付け足しておこう。
「最近どうよ?」
「仕事ばっかしてるけど」
「やばいよねぇ、あたしもだ〜」
「当然、あたしも右に同じでございます」
キャハハ、と混雑した店内でも通る黄色い笑い声だけは、唯一女であることを実感できる。顔を見合わせて溜息をつくことすら遠慮しない、アラサー女のストレスの捌け口の場は、意外と限られていた。
「うちら、そろそろ28だよ〜。やばくない?」
「大丈夫! まだ28までは、半年以上あるじゃない」
「確かに!」
若くてピチピチの容姿でちやほやされていた数年前と比べて、もはやもて余されてしまう存在になってきたのでは、と嘆く。そんな中、唯一、恋愛沙汰の話のない私が異論を唱えた。