足踏みラバーズ
よっしゃ、と小さくこぶしを握った。
また今度、があるのか。思いがけず次の約束ができて浮かれてしまう。
何の気なしに言ったのだろうけど、百合子ちゃんは結構、義理堅い。きっと口約束だけでは終わらない。
義理堅いとか、テンポのいい話し方が小気味いいとか、意外と優柔不断だとか、素直なところとか。まだ会って日が浅いはずなのに、彼女のことばかり考えてしまうのは、惹かれているということなのだろうか。
声が聞きたい、顔が見たい、あわよくば、もっと触れたい。
そんなことを悶々と考え込むうちに、いつの間にか、最寄り駅へと到着していた。
自分がLINEを止めていたことに気づき、
約束ね! 今度はいつ会える?
と返信したけど、百合子ちゃんが見ている様子はない。続けて、ありがとうとかわいいスタンプを送ったけれど、既読がつくことはなかった。
「佐伯さんっ。この前のデート、どうでしたぁ?」
きゅるんっ、と目を輝かせた相田さんに顔をのぞき込まれる。
「いやいやいや。相田さんてば、もう。デートじゃないですってば」
「言い方なんて、なんでもいいんですよぉ。話聞かせてくださいよ〜!」
体を揺さぶられて、わかりましたから〜! と言わざるを得なかった。
「やったっ。それじゃ、今日夜ごはん行きません?」
「いいですよ。でも、私、お店とか、あんまり詳しくないんですけど……」
「じゃあ私の知ってる小料理屋とかどうですか〜?」
「わ、助かりますよ! すみません。頼ってばっかりで……」
「いいんですよぉ! 前に彼氏と行ったところが良いところで〜…」
相田さんの話は、部署の電話が鳴るまで止むことはなかった。
「でぇ、その人とは進展なかったんですかぁ〜」
「相田さんてば! しぃっ、しーっ」
声のボリューーム抑えて! と、唇に人差し指を当てて、必死に訴える。お得意の恋愛話は、私のレベルではお気に召さなかったようで。
「キスならまだしも手を繋ぐくらいあってもいいじゃないですかぁ!」
お酒に滅法弱いのか、目がとろんとしている。それでも頑なにグラスを放そうとはしない。
「まあ、そんなにいきなり来られても私どうしていいのかわからないですよ。たぶんこれくらいがちょうどいいんじゃないですかね」