足踏みラバーズ
4
そうやって、のらりくらりと話す私の能天気さに、不満を隠さず責め立てる。
「女には所詮賞味期限があるんですからぁ! 結婚にしたって出産にしたって、期限があるんです! 子供が欲しくたって、毎年毎年、私たちはできにくくなるんですよ! 悠長なことなんて言ってられないんですぅ〜」
黙ってたら、男は何にもわからないですよ! なんて喚きながら突っ伏した。実に現実味を帯びている。ぐうの音も出ない。だって、その通りなのだから。
相田さんは確か遠距離だったか。きっとプロポーズを待ちわびて、葛藤しているに違いない。誰かに愚痴を聞いて欲しかったのかも、と一人でうんうんと頷いていた。
「あやか?」
微かに誰かを呼ぶ声がした。
その声は何度か聞こえた気がしたけれど、店内のどの人が発言元かわからない。
あやかさーん、呼んでますよーと他人事のように思ってお酒を口に含んだとき、目の前の人で目が留まる。肩を揺すりながら、「相田さん、もしかして呼ばれてないですか?」と付け加えた。
眠そうな目をしぱしぱさせながら、辺りを見回すと、
「まーくん!」
がたっと勢いよく立ち上がる相田さん。
思わず、倒れそうになったテーブルの上のグラスを押さえた。
視界の片隅に見えた男性らしき人物は、相田さんを抱きしめていた。
「うわ、どこのドラマだよ……」
まるで、誰かが私の気持ちを代弁したかのようだった。どこの誰だろう、同じくした意志を持つ同志は。
「……げ。瑞樹……」
「げって何。傷つくんですけどー」
間延びした、その話し方。わざとらしいにも程がある。傷ついてなんか、ないくせに。
そこまで広いわけでもない店内のど真ん中で、注目の的になっていて他のお客さんからの視線が痛い。
「すみません、なんか目立っちゃってるので、とりあえず座りませんか」
声をかけると素直に座ってくれたけど、相田さんとまーくんとやらはすぐに二人の世界を作っていた。
話を聞くと、まーくんは相田さんの遠距離恋愛をしているという噂の彼氏だった。普段は他県で仕事をしているけれど、急な出張で東京に出てきたという。
「それなら連絡してくれてもいいじゃないぃ〜」
ポコポコとまーくんの胸元を叩きながら主張していた相田さんに、
「電話もメールもしたけど、あやかが全然返してくれなかったんだよ」
と、優しく諭すように宥めていた。