足踏みラバーズ
「へー。結構きれいにしてんのな」
まじまじと部屋を見てまわる瑞樹。
あれから、どうにか帰らせる術を探そうと、コンビニでしばらく時間を潰していた。
何度も瑞樹に帰りなよと口うるさく言い続けたけど、すべて右から左へと聞き流していて、私の説得は実らなかった。
それどころか、特に用事もないのに1時間もたむろしていることに気が引けてしまって、ついには瑞樹に丸め込まれて部屋に入れるはめになってしまったのだった。
「あんまりジロジロ見ないでよ」
私の言葉に聞く耳も持たず、あたかも自分の家かのようにソファーへと腰かけた。
「着替え、持ってきてくんない」
「はあ?」
「何、捨てたの。俺のスウェット」
「別に瑞樹のってわけじゃないからっ」
そう言って、スウェットを投げつけた。瑞樹の言葉が図星だったから、余計に気持ちを逆なでる。
ユニクロで買ったXLのスウェットも、仕事に着ていくYシャツとネクタイも、泊まっていくのにいちいち持ってくるのが面倒だと言って置いていった下着も、少しの私服も。
引っ越すとき、捨てようかどうか迷った末に詰めた瑞樹の私物は3箱分もあった。
「ま、お前も座れば」
「……あたしの家なんですけど」
瑞樹はテレビを点けていたけれど、チャンネルをいくつかまわしてみても、深夜だからか面白げな番組がなかったようで、関心がなくなったらしい。
「始発動いたら帰ってよね」
「なんで。明日休みだろ」
「そういう問題じゃないでしょ」
毛布を差し出し、始発の時間になったら起こしてあげるから、と言っても、素直に聞こうとすらしない。
「俺、眠くないし」
「……はあ。どうしろっていうの」
「や、ただちょっと話そっかなーと」
「あーもう、ったく! 始発までだから!」
待ってましたとばかりに、くつろぎ始める。結局また、瑞樹の思い通りだ。
「で? なんで引っ越したか聞いてねえけど」
話を巻き戻されて、見逃してもらえていなかったのか、と顔をしかめてしまった。
答えを聞いて納得するまで引き下がらない、とこちらの目を見て逸らさない。
「なんでも何も、引っ越したくなったからでしょ」
「あっそ。じゃ、髪切ったのはなんで」
「気分転換ですけど」
矢継ぎ早にいろいろ聞かれたけれど、どうやらまだまだ開放してくれる気はないようだ。
「蒼佑と、何回デートしたの」