足踏みラバーズ
「……! げほっ」
驚いて、気管にお茶が入ってしまった。
悠然とキッチンへ向かった瑞樹が、一つのカップを持って戻ってくる。手にしていたのは、藍白色の、マグカップ。
「これ、水族館で買ったのかよ」
「……そうだけど」
「蒼佑とおそろいで?」
言葉に詰まって、しぃんと空気の音が聞こえるほどに感じていた。
「別に怒ってるんじゃねえし。で、どうなんだよ」
「……うん」
「ふーん。デートしたってことね」
「……デートかどうかは、わからない、けど……」
「……いや、知ってたんだけどな。わりぃ」
言葉の意味があまり理解できなくて、頭を傾げる。
「これ、ピンクのやつ。アイツ、会社に持ってきてたし」
「え?」
「や、別に自前のカップ持ってきてる人、他にもいるんだけど。アイツずっと紙コップとか使ってたし。えらい可愛いやつ持ってきてんなーと思って聞いたら、しどろもどろになってたから吐かせた。アイツ俺に黙って何してやがんだ」
「瑞樹に言う必要ないからでしょ」
「なんで」
「……こっちがなんでなんだけど」
「はあ。じゃ、それはもういいわ」
こっち来いと言わんばかりに、とソファーの隣をぽんぽんと叩いて催促してきたけれど、私は頑として動かなかった。
しびれを切らしたのか、ソファーから立ち上がった瑞樹が、私の隣にどかっと腰をおろす。
「何」
「蒼佑とつき合ってんのか」
「関係ないでしょ、瑞樹には」
「関係なくないだろ」
「ない」
「蒼佑のこと、好きなのかよ」
「は?」
「どうなの」
「……」
口をつぐむ私を見て、なんだ、まだつき合ってないってことか、と答えをあぶりだして一旦は満足した様子を見せていたけれど。
続けざまに言葉を発する。
「……蒼佑とヤったのか」
脈絡もない問いに絶句する。時が止まったのかと思うほどの静寂に包まれた。
「セックスはしたのかって聞いてんだけど」
「……や、そんな何度も言わなくていいから。何、なんでそうなったわけ」
顎を触って考え込む素振りを見せた瑞樹は、一拍おいて口を開いた。
「ふぅん。ヤってはねえんだ」