足踏みラバーズ
遅くにごめん 誰か起きてる?
夜も遅い。こんな時間に迷惑だろう。けれど、今は一人で居たくない。
お財布がないから、そんなに遠くへも行けないし、ホテルに泊まるなんて以ての外だ。幸い、今日は金曜日だ。もしかしたら誰か起きてるかも、と一縷の望みをかけて。
ファッション雑誌でも読むか、と雑誌に手を伸ばすと、ブルブルブルと携帯が震える。既読が1。冬子だ。
起きてる。どうした?
簡潔なLINEにすぐ返信する。
今一人? うちにいる?
探りを入れるような返信に違和感を覚えたのか、電話がかかってきた。
「なに、どした? うちにいるけど」
「ごめん遅くに。起こした?」
「や。今帰ってきたとこ。カラオケ行ってたの」
「そっか」
「……百合子、あんた今どこにいるのよ」
来客を伝える音楽が聞こえたのだろうか、こちらが伝えるより先に問われた。
かいつまんで説明をするとすぐに察してくれて、うちに来な、と応じてくれる。
お財布持ってきてないから、歩いていく、着くまで起きててと伝えると、ばか! いいからタクシーで来な、あたし払うから、と強い口調で言われた。
マンションへ向かうと、下で冬子が出迎えてくれた。タクシー代を建て替えてもらって、返すのを忘れないようにレシートは私が受け取った。
「ごめん、いきなり押しかけて」
「いいいい、気にしないで。とりあえず飲みな。寒かったでしょ」
と、温かいココアを出してくれた。コクンと一口口にすると、冷えた体に染み渡る。
コートを脱ぐと、あんたこんな薄着で来たの!? 驚かれた。そうだ、ジャージに着替えようとして、ニットだけは脱いだんだった。
冬に似つかわしくない薄いシャツ一枚。胸元に目をやると下着が透けていた。自分のみっともない格好にびっくりして、コートを着直そうとすると、ニットのガウンが肩にかけられた。
「これ着てな、ね。コートよりラクでしょ」
「ありがとう」
本当に助かったよ、と笑みを向ける。
「恐かったでしょ」
唐突な言葉にきょとんとした顔をしてしまう。
「首。キスマークついてる。瑞樹だね」
「えっ?」
思わず首を触る。ここ、と鏡を渡された。
「うわ、ほんとだ……」