足踏みラバーズ
何度も何度も角度を変えては、まじまじと鏡を覗く。
いつの間につけられたんだろう。あまりに突然のことだったから、よく覚えていない。
「あいつ、全然変わってないね。相変わらずだわ」
ククっと口に手を添える冬子。
うちに来たんだから、全部ゲロしてもらうわよ、とにんまりする冬子に、警察かよ、とツッコミを入れた。
事前にかいつまんで話したことを説明した。
会社の同僚とご飯を食べていたら偶然お店で遭遇したこと、瑞樹に引っ越したことが知られたこと、断りきれずに家にあげてしまったこと。
それと、たまたま飲みの席にいた蒼佑くんが瑞樹の同僚で、それから付き合いがあること。
それをきかっけに瑞樹から連絡があったこと。蒼佑くんと何度か遊びに行ったこと。その蒼佑くんとの関係を問いただされて言葉を濁したら、こうなってしまったこと。
たびたび冬子から、どこで? それで? とか追及されたけど、自分でもよくわかっていないことも同じように伝えた。
「なかなか聞きごたえのある話だったわ……はあ、喉乾いた」
百合子も何か飲む? と立ち上がった冬子の後をついていく。
「あ、煙草? 換気扇の下ね」
指を指して、吸ってもいいよと合図してくる。ふるふると顔を左右に振って、吸わないよ、と身振りで返す。
「や、うちに忘れてきたから。煙草、かばんの中」
「ドジ。これ、彼氏のだけど。よかったら」
「あ、ありがとう。お言葉に甘えて、失礼します……よ、っと」
ブオンと風切り音を鳴らして回る換気扇の下で、くゆりと煙をくぐらす。その隣でミネラルウォーターをグラスに注ぐ冬子。キャップを閉めながら、
「あんたさ、いつから煙草吸ってんだっけ」
と、不意に質問が飛んでくる。
「大学生だったかな? たぶん、20なってすぐとか」
チリチリと火種が燃えて短くなる煙草を見ながら答える。
「時代錯誤だよねえ、わかってはいるんだけど」
「いや、そうじゃなくてさ。いろいろ口さみしいとかあるだろけどね。言ってたじゃん、溜まってるストレスを煙にしてはくとかなんとか」
「あー、うん」
「けど止めたいって言ってたじゃん? 10mgだったの3mgまで落として」
「うん」
「で、瑞樹と別れてからまた結構吸うようになったでしょ」
「まあ、そうかも」