足踏みラバーズ
お腹がいっぱいになったところで、ソファーに体を預けた。牛になるとよく言うけれど、このまま寝てしまいたい。
食器を片すことなくだらだらしていると、瑞樹がテーブルの上を片付けてくれた。
ジャー、と水を流す音が聞こえてきて、食器を洗っているのがわかった。
……数時間前の私と同じことをしている。
せめて何かしなければ、その考えが、家でできること=家事=食器洗いという安易な発想。
気にも留めていなかったけれど、同じ時間を過ごしてきた習慣がしっかりと染みついている、その事実を呑み込んだ。
お尻に根っこが生える前に、一服しようと換気扇の下に立つ。
タイミングよく食器を洗い終えた瑞樹も同じように煙草を一本取り出した。
特に面白い会話をするわけでもなく、テレビを見たり、ゲームをしたり。各々が好きなことをして過ごしていた。
携帯が鳴ったことに気づかなくて、目の前に携帯をぶらぶらと差し出された。
「携帯。鳴ってる」
「え、あー、ほんとだ」
どうやら電話がきていたらしい。
画面に表示されていたのは、蒼佑くんの名前だった。
電話に出られなかったときは、いつもはかけ直すのだけれど、瑞樹の前で連絡するのは憚られた。
「蒼佑?」
「え? あー…えっと」
「いや、名前見えたし」
隠さなくてもわかってる、と自分の携帯を取り出して、何やら操作し始めていた。
蒼佑くんは、電話の他にLINEもくれていて、その返事をぺこぺこと文字を入力し送信し終えた時には、既に瑞樹はテーブルの上に携帯を置いていた。
ピリリリリ ピリリリリ
ピロン ピロン
今日はやけに携帯が鳴る。
やばい、仕事で何かポカしたのかも、血の気が引けて勢いよく体を起こす。すぐさま確認しようとすると、瑞樹が私の手から携帯を奪い去った。
仕事だったらどうすんの! と強めに訴えたけど、画面をチラリと見て、携帯の電源を切ってしまった。
「上司からだったら、どう責任とってくれんの」
きっ、と睨みつけるような視線を送ったけれど、「仕事じゃないから、絶対」と画面を伏せてテーブルの端に寄せ置いた。
「ちょっと今邪魔されたら困るし」
真面目なトーンで言うものだから、気がかりだった携帯のことはそっちのけになってしまった。