足踏みラバーズ
5
ちょっとやりすぎたか。
湯船に浸かりながら、昨日の出来事を思い出す。
百合子をふったのは自分なのに、未練を残しているのもまた自分だなんて、他人から見たらさぞかし矛盾していることだろう。
そんなことはわかっている、痛いほどに。
「ねえ、明日飲みに行こうと思うんだけど。奏恵と朱莉とね、あと冬子と……」
「だめ。仕事終わったらまっすぐ帰ってこい」
こうしたやり取りが何回あっただろうか。
高校でつき合って、遠くの大学に行って、社会人になって。
どんどん違う世界を見て、俺の知らない世界で生きていくようになった百合子を見て、不安でたまらなかったのを覚えている。
昔は自分の知っている名前しか出て来なかった会話も、いつしか知らない名前が出てくるようになった。加えて、それまでは聞くことのなかった、男だと思われる名前も頻繁に出るようになって。
8人いる部署に女2人だという話は聞いていたから、必然的に男の名前が出てもおかしくはない。
おかしくはないのに、それに我慢がきかなくなって、徐々に束縛するようになった。しまいには、同級生の女友達と会うことさえ、制限をかけるようになってしまった。
自分のいないところで、自分の知らない話をされるのが嫌だった。
百合子の世界が広がると、俺のことはどうでもよくなっているのではないだろうか、そんな思いを抱くようになって。
百合子のことは好きだ。誰と比べるまでもない。
しかし、百合子の一番は俺ではないのではないか。
仕事に精を出して、仕事が一番になったのではないだろうか。……その仕事の相手は、男なんじゃないだろうか。
別に百合子に直接聞いたわけではない。けれど、万が一でもそうだと言われるのが怖かった。
勝手な思い込みだというのは、今となっては重々承知している。
疑心暗鬼になり、本人にも聞くに聞けなり、どこにこの思いをぶつければいいのだろう。悩んだ末に、間違った答えを見出したのは、俺自身だ。
何回か、浮気をした。
ホテルに行って、そこそこいい女とそこそこ気持ちいいことをする。同じ女と二度はしない。
チューをして、セックスをして、適当に優しくすれば、俺のことが一番好きだと言ってくれる。
自分のねじ曲がった考えは、間違った方向に進んでいて、取返しのつかないところまでいってしまった。