足踏みラバーズ
「へー。相変わらず! 百合は自分から放棄してるわ、男との出会いを。ちなみにそれ誰? 合コンの子」
「うちの営業の佐々木くん」
「あ〜。背の高い」
「チャラっぽい人ね」
「……何? みんな知ってる人?」
いやいやいや、と一斉に遮られる。
「この前写メ見せたでしょ! 結構高得点のイケメンだって話ししたでしょうよ」
「そうそう、85点くらいのさぁ」
「黒髪なのにチャラさが隠せてないって」
「……ああ! そういやそんな話したかもなあ。佐々木くん……あっ、ポールスミスのシックなピンクのネクタイの!」
そうだっけ、覚えてないや、と言い合う間に、「営業の佐々木くん」の写メを、冬子が改めて見せてくれた。
「あ〜! これこれ!」
「そうそう、百合、この人のことだよ! ……うわ、確かにピンクのネクタイだ」
「あんた、着眼点が独特すぎるわ。普通はまず顔見るでしょ」
どっと笑いが起きる。
「せっかくさあ、いいなって言ってくれる男がいるんだから、会ってみたらいいのにねぇ」
「本当だわ」
「だよね。行く?」
「行かない」
「ほら出た、即答。前はさあ、いちいち来るか来ないか百合子に聞いてたんだけどさ、どうせ断るのが目に見えてるから、最近こういうの門前払いしてるわ」
「うわ、大変」
「会社の飲み会には行くんだから、同じ感じでサクッと行けばいいのに」
「……なんか怖いじゃん」
「まあ、百合みたいのがフリーだったら怖いかもね」
「絶対狙われるもんねぇ」
「面倒くさいねー」
「……ごめん」
百合子のこと面倒だって言ってるんじゃないよ、とフォローしてくれる優しさが今は痛い。心底、申し訳なさを感じてしまう。
「……この話やめよっか! うちの相田さんの話でも聞く?」
自分から議題にあげたものの、いたたまれなくなって無理やり話しを逸らそうとしたけれど、「止められるわけないでしょ!」と、踵を返された。
「あんたみたいのが、一番結婚したほうがいいと思うけど」
「確かに。百合子を送り出さないと心配だわ」
「変な男に捕まらないようにね〜」
「ふふっ。変な男って。あたし、そんな男の趣味悪いかねえ」
一瞬、沈黙が流れる。
「悪いわけじゃないかもだけど」
「ねぇ」
「うん」
「え、何よ?」