足踏みラバーズ
「月曜日、清水先生のところ行くからその前にお願いしたいんだけど、どう?」
「じゃ、明後日とかどうすか」
「いいよ、もちろん。じゃあ明後日ね。タイミングいいとき声かけて」
引継ぎの注意事項は要確認。よかった早くできそうで、とホクホクしながら自分の席に戻る。
そういえば、中島君の席は斜め向かいだけど、私の席からはあまり見えない。
編集の机の上は散らかりがちで、人によっては雪崩のおきそうなほど高く紙を積み上げている。席が近くないからって、ケアを怠ったのかも、と自省する。
中島くんは物怖じしないし、あっけらかんとしている性格だという認識があったから、あまり気にして配慮を向けていなかった、人に気を配れないアラサーってどうなんだ、とシュンとした。
通常であれば仕事が休みの土日祝日も、校了前は返上で出社する。
こんな状態は染みついていて、できれば会社に泊まらずに家に帰って睡眠をとったほうが効率がいいというのもわかっている。
それでもこんなに屍のように眠る同僚がところ狭しと並んでいるのは、家に戻る時間さえも睡眠時間にあてたいというギリギリの精神状態で仕事しているからだ。
ゴミ屋敷かな、と苦々しく笑う。
朝日がまぶしい時間はとうの昔に過ぎていて、お疲れさまですと、コンビニのおにぎりとサンドイッチを差し入れで持ってきたことを伝えると、自分の食べるぶんを確保する暇もなく、すっからかんになってしまった。
修羅場のような怒涛の仕事に追われる日々からようやっと解放される時間が訪れて、一区切りついた頃には日も暮れてしまっていた。
今日は、中島くんに引継ぎの確認をするはずだったけど、如何せん皆一様に疲労の色が見て取れる。うーん、と頭をひねって顎にペンをあてた。
「佐伯さん、これからいいっすか。清水先生の引継ぎなんですけど」
待ってましたとばかりに、中島くんの元へ駆け寄り、メモを持って、椅子に腰かける。
「ついでにメシいきません? 今日はもう会社いるのだるいんで」
「ああ、そういうこと! そしたら個室じゃないとないとだめだね、人に聞かれても困るし」
「そうっすね」