足踏みラバーズ
帰らせたほうが良かっただろうか。
うとうとと、頭を前後にゆらゆら左右にゆらゆら、食べ物に突っ込んでしまいそうなところを見ると、いつかこの焼き鳥の盛り合わせにダイブするんじゃないかと冷や冷やする。
「中島くん、ネームとかペン入れの癖も、清水先生の性格も聞けたし、もう帰ろうか?」
ご飯食べにきていたのに、食べているのは私だけ。
眠そうな中島くんを目の前にして、これ以上は難しいかなと帰宅を促しても知らんぷり。若造め、どんなに疲れていたとしても先輩を無視することはないじゃないか。
けれど目にクマを作っているあどけない顔を見て、言うに言えなくなってしまった。
「オレだって、がんばってるんすよ」
おもむろに口を開く。その言葉をきっかけに、堰を切ったように感情をぶつけてくる。
担当下ろされるなんてどこが悪かったんですか、先輩も誰も何も教えてくれなかったじゃないですか、これなんですかって聞いても自分で考えろって突っぱねて、そこに先輩たちがいるのにググるのなんて、会社に来ている意味がないじゃないですかと、とめどなく溢れる言葉に胸が痛くなる。
何年か前、私も同じことを思ったことがある。
また同じことを繰り返して、後輩の支えになることもせずに、どれだけ不安に思っていたのだろう。言葉に詰まって俯いた。
「仕事したいのは当然じゃないすか。けどプライベートをちょっと大事にしたら、仕事をないがしろにしてるって、どうしろって言うんですか。オレは、仕事のために生まれてきたんじゃないのに」
ぐす、と鼻をすする中島くんを見てやりきれない思いになる。ごめん、と一言中島くんに告げると、なんで佐伯さんが謝るんですか、と怒られてしまった。
それから、お酒を注文しては浴びるように飲み干す中島くんを見て、ハラハラしながらも止めることはできずに、刻々と時間が経過していた。
この間、中島くんは何杯お酒を飲んだだろうか。覚えているだけでもゆうに10杯は超えている。これが、かのいうヤケ酒か。