足踏みラバーズ
どこらへん? という問いには、オレ金ないからタクシー無理です、とうなだれていた。
「ちょっと休んでれば、大丈夫なんで」
顔を青ざめて話す中島くんに説得力は皆無だった。
「……まったく……」
私のまわりは酒に呑まれる人が多すぎるのではないだろうか。
自制できないなら飲まないでよ、と思ったけど、あいにくここで中島くんを置いて早々に家に帰るほどの卑劣さは持ち合わせていない。
30分ほど人通りの激しくない場所に二人でしゃがみこんでいたけど、一向に良くなりそうもない。
「……しょうがない。中島くん、家来なよ」
そんなに遠くないからと、タクシーに放り込む。もしものときのためにビニール袋を持ち、準備万端、隣に座った。
「中島くん、うち着いたから降りて」
うう、と体を丸めて降車する。
部屋に着くと、玄関にへたり込みそうになる中島くんに、「待って! 運べないからベッドまで歩いて!」と声を大にして命じた。
ベッドに寝かせると、ふう、と一息つく。
嘔吐したままの姿で寝かせるのは嫌だったから、服は着替えてもらって洗濯をすることにした。枕元にビニール袋の中に新聞紙をしいたボウルを置いて、ミネラルウォーターも用意した。
ぐおんぐおんとまわる洗濯機を見て、なんだか心が落ち着きをとりもどしていたようだ。
自室のコンパクトなソファーのサイズ感を前に、ベッドに寝かせて正解だったな、コクリと頷く。テーブルの上に無造作に置いた携帯にチラリと目をやると、〝高橋蒼佑〟の名前が表示されていた。
「もしもし?」
「あ、ごめん。こんな遅くに……起きてた?」
「大丈夫、起きてたよ」
そういえば以前瑞樹が家に来たとき、蒼佑くんから十件を超える連絡があった。
仕事かと思って瑞樹を咎めていたけど、絶対に違うと言っていたことに間違いはなく、ピロピロと鳴る連絡はすべて彼からのものだった。
次の日熱を上げてごろごろしていたから、ろくに確認もせず、おまけに折り返すのもすっかり忘れていた。あれから期間が空いたこともあって、急に気まずく感じられた。
「蒼佑くん。ごめん、この前、電話くれてたのに」
「んーん。いいよ。おれもいっぱい連絡しちゃってごめんね」
「ううん、ほんとにごめん」