足踏みラバーズ
お互いに謝り合い、ひとまず気持ちが楽になる。少しの間の後、蒼佑くんが言いにくそうに口火を切った。
「……この前、瑞樹と一緒だった?」
「えっ。う、うん。なんで知ってるの?」
見透かしたように言われて、目をまるくする。当然、蒼佑くんには見えないけれど。
「……あのね、その。瑞樹から聞いた」
「え」
「その日、瑞樹からLINEきた。百合子ちゃんに電話して、その返事、もらったすぐあとくらいに」
記憶を辿ると、確かに瑞樹は携帯をいじっていたっけ。けれど蒼佑くんに連絡しているとは思わなかった。
だからあのとき、あんなに私の携帯が着信や通知を伝えていたのにも関わらず、仕事じゃないと言いきっていたのか。点と点が思わぬところでつながって、合点がいく。
「瑞樹に、百合子と大事な話すっから、って。今日百合子んち泊まるからって。邪魔すんなって言われたよ」
はは、いきなりすぎてびっくりしちゃった、と努めて明るく話そうとしているのがわかって、すぐに言葉が出てこなかった。
「……えっと、ごめん、なんて言ったらいいのか……」
思うところを正直に話すと、くすくすと小さく笑い声が聞こえてきて、
「百合子ちゃんが気に病むことじゃないよ。そんな謝らないで。おれが勝手に嫉妬しちゃっただけだから」
あまりにストレートな言葉で、口を閉じるのも忘れていた。
野球だったらきっとストレート、三球三振ストライクだと、頭の中で蒼佑くんがマウンドでガッツポーズしていた。……野球をやっていたなんて話は、聞いたことないけれど。
「蒼佑くん、あのね、」
続けざまに発する言葉を嫌ってか、私の言葉を待たずに蒼佑くんが話し始める。
「百合子ちゃん」
「……はい」
「会いたい。百合子ちゃんに直接言いたいことがあるから」
「……うん」
「明日、もう今日になっちゃったけど。会えないかな? どこでもいい、駅でも公園でも、なんでもいいから顔が見たいよ」
「……」
「百合子ちゃんが行きたいなら、ちょっといいレストランでもいい。おれ、実家だから少し貯金あるよ」