足踏みラバーズ



 お互いに謝り合い、ひとまず気持ちが楽になる。少しの間の後、蒼佑くんが言いにくそうに口火を切った。



「……この前、瑞樹と一緒だった?」

「えっ。う、うん。なんで知ってるの?」



 見透かしたように言われて、目をまるくする。当然、蒼佑くんには見えないけれど。



「……あのね、その。瑞樹から聞いた」

「え」

「その日、瑞樹からLINEきた。百合子ちゃんに電話して、その返事、もらったすぐあとくらいに」



 記憶を辿ると、確かに瑞樹は携帯をいじっていたっけ。けれど蒼佑くんに連絡しているとは思わなかった。

だからあのとき、あんなに私の携帯が着信や通知を伝えていたのにも関わらず、仕事じゃないと言いきっていたのか。点と点が思わぬところでつながって、合点がいく。



「瑞樹に、百合子と大事な話すっから、って。今日百合子んち泊まるからって。邪魔すんなって言われたよ」



 はは、いきなりすぎてびっくりしちゃった、と努めて明るく話そうとしているのがわかって、すぐに言葉が出てこなかった。



「……えっと、ごめん、なんて言ったらいいのか……」



 思うところを正直に話すと、くすくすと小さく笑い声が聞こえてきて、



「百合子ちゃんが気に病むことじゃないよ。そんな謝らないで。おれが勝手に嫉妬しちゃっただけだから」


 あまりにストレートな言葉で、口を閉じるのも忘れていた。

野球だったらきっとストレート、三球三振ストライクだと、頭の中で蒼佑くんがマウンドでガッツポーズしていた。……野球をやっていたなんて話は、聞いたことないけれど。



「蒼佑くん、あのね、」



 続けざまに発する言葉を嫌ってか、私の言葉を待たずに蒼佑くんが話し始める。



「百合子ちゃん」

「……はい」

「会いたい。百合子ちゃんに直接言いたいことがあるから」

「……うん」

「明日、もう今日になっちゃったけど。会えないかな? どこでもいい、駅でも公園でも、なんでもいいから顔が見たいよ」

「……」

「百合子ちゃんが行きたいなら、ちょっといいレストランでもいい。おれ、実家だから少し貯金あるよ」




< 54 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop