足踏みラバーズ



 きっと今、電話の向こうで蒼佑くんはいたずらっ子みたいに笑っているのだと思う。

けど、心臓が張り裂けるくらい緊張しているはず。だって、時々声がうわずって聞こえる。




深夜に連絡してきてすぐ会いたいだなんて、よほどのことだと思う。

蒼佑くんは、あまり無理を言ってくる人ではない、と私は思っている。とはいえ、私もそこそこ大人だ。その言葉の続きを、会って話したいなんていう話の中身が何かなんて、私にだって検討がつく。





フローリングの木目を数えて気を紛らわそうとする辺り、真摯に受け止めていない自分はずるいと思う。


今だって、特別親しいわけでもない後輩、しかも男が一つ屋根の下にいる。

悪酔いをして、寝ているけど。自分の状況を鑑みて、ほいほい自分の家に男の人をあげて、とんでもない尻軽女かよ、と蔑む。




自虐はいいけど、蒼佑くんに言われたらちょっと辛いな、なんて都合のいい思いを巡らせていると、寝室のドアがギィ、と開く音がした。






 リビングを出ると、胸元をおさえた後輩が立ちすくんでいる。



「佐伯さん、あの、すみません、吐く……」



 そう言って座り込みそうになる中島くんを、慌ててトイレまで連れて行く。げえげえと、辛そうな様子はこちらまで辛くなってくる。



「吐いてもいいように枕元に置いておいたんだけど」


「あー…すみません、気づかなかったっす……」



 トイレの壁にもたれかかって、苦しそうで。

トイレのほうが気持ちが楽かな、すぐ吐けるし、とブランケットを背中にかけて、自分も近くに腰かけた。

何か話したほうがいいだろうか。うるさくても頭に響くだろうしな。床暖ないから寒いでしょと無難に一言だけ発するに留めた。





 その間、ソファーに携帯を放ったらかしにしておいて、既に電話は切れていた。

かけ直してみたけれど、コールはすぐに留守電になってしまって、ああ、やってしまったと嘆いた。




 しばしトイレで休んだあと、ちょっとよくなりました、すみませんと再び寝室へ向かった。

ひと眠りしたら、だいぶ体調も戻るだろう。ほっとしてリビングに戻ると、タイミングよく電話がきていた。





「はい」

「百合子ちゃん?」

「蒼佑くん、さっきはごめん。途中で電話切っちゃって」

「や、切ったのはおれだから。いいよ」



 先ほどと違って言葉少なな蒼佑くんが怒りを募らせているものと思い、姿勢を正して構える。すると、





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