足踏みラバーズ
「佐伯さん、その人誰ですか!? まさか彼氏!? そんな話聞いたことないですよ!」
どたとだ部屋に入ってきて、何事かと思えば、取りつく島もなくぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
「中島くん声がでかい……」
こっちが頭痛くなる、と苦笑した。
「具合どう? 帰れそう?」
「あっ、はい! すみません、迷惑かけて」
「本当にね」
反省しなさい、と洗濯済みの服を渡した。
「あざっす。あれ、そういやこの服彼氏さんのですか? すみません、借りちゃいました」
何やら蒼佑くんのことを彼氏と勘違いして話を進めていている。
この状況下ならそう思ってもおかしくはないけれど、願わくば余計なことは言わないでくれという私の焦りは届くはずもなく、蒼佑くんと楽し気に話をしていた。
いつからつき合ってるんですか、佐伯さんのどこら辺に惹かれたんですか、家での佐伯さんてどんな感じですか。
こちらの気も知らずにきゃっきゃとはしゃぐ中島くんが恨めしい。
考えてみれば、思わぬ形で歳の近しい人と出会えたのが嬉しかったのかもしれない。会社勤めになると、どうしても知り合うのは仕事関係の人が多くなりがちなのは明白だ。
それを嫌がる様子もなくにこにこ受け答えをしている蒼佑くんを見て少しだけ、ほっとした。
「中島くん、駅まで送るよ。道、わかんないでしょ?」
「あ、すみません。お願いします」
外に出ようと、「忘れ物ない?」「あったらあとで持ってきてくださいよ〜」と気の置けないやりとりをしていると、「おれも行っていい?」と様子を伺うようにそっと申し出た。
どうやら、蒼佑くんも一緒に来てくれるらしい。
このちゃっかりした後輩と、いつの間にか仲良くなっていたようで、道中二人の会話は弾んでいて、改札に入る前に、今度飲みに行きましょうね! と元気に手を振って、はつらつとした様子で帰っていった。
「あ、蒼佑くんは……」
自分の口から帰る? なんて聞くのもどうかな、と戸惑いを隠せずにいる私。
「もうちょっと一緒にいたいな」