足踏みラバーズ
いい? と顔をのぞき込んできて、柔らかい言葉の中にも断る選択肢を与えない。少し強引なところは瑞樹と似ているな、そう思いながら再びマンションへの帰路につく。
途中、風が強く吹いて化粧の落ちた顔は、コートを羽織ったくらいでは到底隠せなくて、せめてはっきり見えないようにと、家まで歩いた。
部屋に戻ると、お昼ということもあって家で昼ごはんを作って二人で食べた。
本当は土日に食品を買って、ある程度の量をまとめて調理しておくのがルーティーンになっていて、外に買い物に行きたかったけど、客人を放っておくわけにもいかず、室内で過ごすことになった。
「百合子ちゃん、あの後輩くんと仲良いの?」
私の日常に興味があるのか、家に来てからというものの、数多の質問が飛んでくる。普通かな、と答えたけれど、その後でそんな仲の子を軽々と家に上げるのは不自然かも、彼の顔色を伺ってしまう。
「ごめん。さっきから、おれちょっとうざい? いろいろ聞きすぎたかな」
遠まわしに質問されるのはあまり得意じゃない。
とりわけ詮索されるのが嫌だというわけではなく、それらを問われて何がしたいのか、私に何を求めているのかがわからないまま、地に足のついていない宙ぶらりんの不安な気持ちでいるのがあまり好きではない。
「百合子ちゃんのこと、もっと知りたいんだ」
けれど、そういう彼の質問はいとも簡単にくみ取れる。
……蒼佑くんは、私に好意を向けている、と思う。
自惚れかもしれないけれど、時折見せる甘い視線と笑みは、瑞樹がくれた、慈愛のそれと似ている。
——考えすぎだろうか。
「今日、いきなり百合子ちゃんちに来たのはさ」
蒼佑くんは、一息ついてゆっくりと話始めた。
「瑞樹からいろいろ聞いちゃったんだよね」
電話で話していたことだ。それに加えて、以前瑞樹が口を滑らせて、私たちがつき合っていたことは蒼佑君くんの知るところとなっていた。
「迷惑かもしれないけど、百合子ちゃんの口から聞きたいんだ」
少しばかり、拍子抜けしてしまった。てっきり告白されるものとばかり思っていたから。
今日一日の葛藤は自惚れだったのか。自分の失態に顔が熱くなる。