足踏みラバーズ
瑞樹から好きだと言われたのは事実で、それ以外に何もないのかという問いには、押し倒されたあげくキスされました、なんて言えるわけもなく。
上手くかわすこともできずにいると、瑞樹のこと、好き? とまっすぐに見つめられて視線を逸らすことができなかった。
「……好きかどうかはわからない」
蒼佑くんの求めている答えではないと思うけれど。今の私からはこれ以上の答えは出せなかった。
「瑞樹となんで別れたの?」
10年くらいつき合ったって聞いたけど、と頬杖をつきながら、あくまで真面目なトーンは崩さずに問いかけられた。
「……わからないの、本当に。気づいたらふられてた」
自分で自分の古傷を抉ってどうするんだろう。それを聞きたいのは私のほうだ。
ぐるぐると答えの出ない疑問にセンチメンタルになってしまう。
すると彼は、瑞樹は上手くやるやつだって思ってたんだけど、と苦笑いして小首を傾げていた。
「蒼佑くん」
ん? まじまじとこちらを見据える。
「あのね、瑞樹と仲違いしたってことはないよね?」
「ああ! 全然ないよ! 昨日も一緒に飲みに行ったし」
よかった。それが一番もやもやしていた原因だったから。けれど、
「仲良いやつと恋敵とかすごいよね」
と、あたかも普通のトーンで言ってきて、一瞬疑問に止めることもなく過ぎ去りそうだった。
やべ、ときょろきょろしている彼は、見えないようにテーブルの下で太腿をさすっていたけれど、すん、と背筋を伸ばして口にした。
「百合子ちゃんのこと好きだよ」
えへへ、と照れ臭そうに言う蒼佑くんの言葉はタイミングを見計らったにしては突拍子がなさすぎる。
固まる私の髪をすくように、手を差し込んできて、
「ピアス、つけてくれてるんだね。嬉しい」
そう言って、耳を優しく撫でた。照れた素振りを必死に押し隠していたけれど、耳まで赤く染まっていたようで、可愛い、と何度も囁くように口にした。
「……っ、ごめん」
びっくりして、思わず手を跳ね除けて耳を塞いだけれど、不快になる様子もなく満面の笑みを浮かべて私を見ていた。
蒼佑くんの、まんまるのくりくりとした大きな目が私を捉えて放さない。じっと視線を合わせて、その瞳に吸い込まれそうになる。