足踏みラバーズ
「……いや、ねぇ。もしかして、まだ瑞樹のこと引きずってんのかな、ってね」
「ああ! 瑞樹? え、なんで?」
何とも思ってないですよと軽いノリで返したつもりだったけれど、長年の付き合いの3人には隠せなかったようだ。
「百合子ー、うう、もう駄目、あたしが泣くわ」
涙もろい奏恵の目に涙が浮かぶ。留まることなく、ぽろっと大きい一筋の涙が頬をつたった。
「うわっ、やめてよ。やばいやばい。ハンカチ、ハンカチ」
奏恵の涙にぎょっとして、すぐさまハンカチを差し出した。
「ううぅ〜。ありがと、百合子。でも大丈夫、ファンデ付いちゃうから、おしぼりで拭く~~。ううぅ~」
思いのほか泣き崩れる友人の様子を見て、逆に冷静になる。
「カナ、泣くな泣くな。本人差し置いて」
「そうだよー。百合子見てみな。目ぇまんまるにしてる。すごい、マンガみたい」
「うう〜。だって、10年近くもつき合っててさ、別れるって何なの」
「7年だけどね」
「それはいいんだよ! もう! 百合子は腹立たないの〜!? しかもあいつ、口悪すぎじゃん〜」
「それは確かに」
「だね」
うっうっ、と嗚咽が聞こえる。当事者なのに、つい圧倒されて傍観してしまう。
「別れるのは百歩譲っていいとしてもさ。いろいろあるしね、うちらも大人になったし」
「うん。けどさ、お前もういらないとか、つき合ったのは間違いだったとかなんなの? これ百合子に言ったんじゃなかったとしても、めっちゃ腹立つんだけど」
「全否定って感じはあるもんね」
「うっ、うっ、そうだよ〜。何様なんだよ瑞樹のやつ〜。あいつのせいだよぉ〜〜」
泣き喚く声に、罵詈雑言。……阿鼻叫喚、そんな言葉がしっくりとくるような。
飲み放題3時間プランのはずが、こんなところで終われないと、お開きになるのはまだまだ後になりそうだ。