足踏みラバーズ



 瑞樹とは、同じ会社に入社して、仲良くなった頃には既に独り身で、ふらふら女とつき合うやつだと思っていた。すましたような顔をしているけど、意外と冗談も言うし、良く笑う。

女性にルーズなのはおれにとっては気になることではなかったから、特に突っ込んで聞くわけでもなく、一緒にいて気が楽だった。



一緒に飲みに行ったある日、飲み足りないから宅飲みしようと家に押しかけたことがある。




断ることもなく、すんなりと入れてくれた部屋は、意外と生活感のあるものだった。



トイレを借りたら、見えにくいところに女性用の生理用品が置いてあったし、ベッドの上には枕が二つ、置いてあった。

まあどの女のかわからないけど彼女のだな、と疑問視することもなかったけれど、後々、女とはホテルにしか行かない、と聞かされた。


嘘つけ、あんなに女の影が残ってるじゃん、と軽くツッコミを入れたときには、捨てたら何もなくなるだろ、と憂いを帯びた目をしていて、このちょっとした影に女はころっとやられるんだろうな、と羨ましく思った覚えがある。



こんなかっこいい容姿のやつの想い人が百合子ちゃんのことだとは知らなかった、昔の話だ。

 








 最初は、可愛い子だと思った。

たれ目がちの目が年齢より幼さを感じさせたし、顔に合ってない適当な服装も目を引いた。




 合コンに行けば、女の子によく話しかけられたし、例によって、百合子ちゃんもよく話しかけてくれたけど、俺だけじゃなくて、話に入ってない人に話しかけていて、ああ、ぶりっこね、と妙に納得していた。

けれど、話し方はサバサバしたものだったし、仕舞いには、その髪邪魔じゃない? と悪びる素振りもなくけろっと言っていた。




自分に好意を寄せていたというのはとんだ勘違いで、恥ずかしく思った記憶がある。



もっと知りたいと、その日限りの飲み会だけでは終わらせられなくて、友人に頼んでは、何度か飲みの席を設けてもらって、そのたびに連絡先を聞き逃しては、お風呂でぶくぶく頭まで浸かって後悔の念を紛らわす、そんなことを繰り返していた。

 



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