足踏みラバーズ
ふと百合子ちゃんをおかずに一人で事を済ませたことがある。
男だし、一人で致すのは当然のことだけれど、彼女がいたときだっておかずにするのは綺麗なAV女優だったし、一緒に過ごす意外は正直彼女のことを思い出す、なんてことのない白状者だったから、びっくりして、「彼女をおかずにしたことあるか……」と寝起きの弟に聞いたりもした。
そのときは「は? きもいんだけど」と一刀両断され、「やるんだったらホテル行けば」と冷たくあしらわれた。
頭を捻って、たいして良くもない頭で考えていると、そもそも家に彼女を連れてこようとしたことがないことに気づいた。
実家だといえば、大概の女の子は納得してくれたし、そもそも家族に紹介するなんて考えは微塵もなかった。
それに気づいた頃には、百合子ちゃんのことばかり毎日考えてしまっているのに動揺して、これが恋なのかと、クサいことを考えてはその考えを散らしていた。
まだ「友達」にもなれていない関係なのに。
——こんなに悩んだことなんて、なかったのに。
経験したことのない悩みは、一抹の不安さえも呼びおこす。
頭をよぎって仕方ない。……瑞樹、なんでお前も百合子ちゃんのこと好きなんだよ。
「それじゃあ、下咲は一カ月大阪に出向ということで」
よろしくお願いしまーす、と会議室から漏れ聞こえていたのは、百合子ちゃんが告白に応じてくれた次の日のことだった。
「出向って、何? 転勤?」
部署の違うおれには状況がよく飲みこめなくて、聞くところによると、新しいプロジェクトのヘルプに携わるということらしい。こちらの返事を聞こうともせず、無理やり飲みに連れていかれた、数日後のことだった。
「どうしよう……」
こればかりは彼女、になった百合子ちゃんにも相談できない。というか、百合子ちゃんだからこそ相談できるわけがない。