足踏みラバーズ
蒼佑くんは、つき合うことになってから、頻繁に家に来るようになった。
彼氏、なのだから何も不自然なことではないけれど、毎日「家行っていい?」と確認されるのが面倒くさくなって、合鍵使う? と軽く言ったら、その日はずっと大事そうに鍵を握りしめていて、なんとなくばつが悪くなってしまった。
早すぎ? 尻軽? そんなことを悩むことはあったけれど、その頃、無視し続けていた瑞樹からの連絡も少なくなっていて、少しだけ気が楽だった。
瑞樹のことを進んで話すことはあまりなかったけれど、本来仲の良い二人なのだから、当然会話に出てくることもある。
気に留めることもなかったけれど、蒼佑くんが気を使っているのか、瑞樹の話になると不自然に逸らすのが気になって、問い詰めようとした、ある日。
「ただいまー」
先に仕事を終えて、家で待ってくれていた蒼佑くんが、おかえり! と迎えてくれる。
なんだろう、亭主関白ってこんな感じなのだろうかとおぼろげに考えていると、あれ? と蒼佑くんの視線が手に向けられた。
「手紙?」
今時古風だね、なんて笑っている彼には言いにくかったけれど、隠すことも憚れて、差出人を見せながらこう言った。
「これ、瑞樹からなんだよね。なんだろ? しかも消印大阪なの」
何の気なしに笑って、封を開けようとすると、身体を強張らせているのが視界に入ってきて、すぐになんだろうね? とよそよそしい態度に変わったものだから、じろりと睨みつけた。
「蒼佑くん」
「や、おれ、何も知らないよ」
「……まだ何も言ってないよ」
一体なんだっていうんだ、と封筒の中に入った紙切れ一枚に、目をやった。
〝電話、無視すんなよ。帰ったら、話ある。″
電報か、とくすりと笑って読んでいたけど、隣で固まる蒼佑くんを前にして、問い詰められずにはいられなかった。
「百合子ちゃん、実はさ……」