足踏みラバーズ
ぽつぽつと話をしてくれた。
瑞樹が一カ月ほど仕事で大阪に行ったこと、つき合ったことを言えずに大阪に行ってしまったこと、瑞樹が弱ったところに、わざわざ告白したこと。
瑞樹がホテルにいた理由とか、と小さな声で付け加えた。
もじもじと落ち着かない様子で、手をひっきりなしに動かしていたけど、私にとっては取り留めのない話で、気にはなるけれど、それらを知ったところでどうこうしようもないな、とあっけらかんとしていた。
「おれのこと、嫌いにならない?」
下から見上げるように私の顔を覗いてきて、ならないよ、と便箋を封筒に戻した。
「でも、どうしよう、これ……」
封筒を机に置きながら、蒼佑くんの答えを待つと、一回、ちゃんと話したほうがいいかもね、と思いがけない答えが降ってきた。
「え、いいの?」
彼女ですけど、なんて出しゃばるつもりは毛頭ない。けれど、他の男と会っていいなんていうのはありなのか。訳が分からないという私に、蒼佑くんが力なく笑っていた。
「おれ、ずるいことしたから」
先に暗黙の了解を破ったのは自分だと言っていた。
瑞樹が私に告白したのは、偶然だけれど知っていたと。
その上、蒼佑くんが好意を向けくれているのにも気づいた上で、告白したのだから、お前も告白するまで何にもしないと、フェアじゃないだろ、と言ってくれたんだよ、なんて言っていたけど。
フェアも何も、私の気持ちはどこ行った、と途中で黙っていられなくなって聞き返したけど、瑞樹に無理やりつき合おうとか、それこそエッチとかしたら、なしくずしにまた瑞樹とつき合ってたでしょ、と言いにくそうにしていた。
「百合子ちゃんのことばかにしてるんじゃなくてね」
「……うん」
「瑞樹のこと嫌いになって別れたわけじゃないもんね?」
今、つき合っているはずの彼になんてことを言わせているのだと、冷や汗がつたう。
「瑞樹にとられたくないよ」
だからずるしちゃった、と下を向いていた。フェアに、っておれのことも考えてくれていたのに、と。
「おれがそれを踏みにじったから、ちょっと、後ろめたい」
と、無理やり笑う顔を見たくなくて、蒼佑くんの隣に腰を下ろした。
「じゃあ一回ちゃんと、瑞樹と話する」
ソファーも背もたれにして、身体を預ける。
「蒼佑くんとつき合ってるってちゃんと言う」
いつにしようか、蒼佑くんも同席する? それは気まずいか、なんてぶつぶつ呟いていたら、啄むような、キスをされた。
何回も、何回も。
ぎゅっと抱きしめられて、肩にぐりぐり顔をつける。
くすぐったいよ、と笑ったけれど、離してくれる様子もなくて、おずおずと蒼佑くんの背中に手を回したら、少しだけ深い口づけを、した。