足踏みラバーズ
1カ月という時が経つのは早い。歳を重ねるたびに顕著にそれを実感する。
連日、キラキラと光るイルミネーションが光る街並みに心ときめく。夜になると、カップルがここぞとばかりにくっついていて、目を逸らすのも不自然なくらいに溢れかえる、人、人、人。
愛を語るのにはまだ時期尚早なのか、ウォーミングアップをするかのごとく、ツリーの前で足を止めては二人の影が重なるのを、何度も忙しなく歩いては横目で見ていた。
編集という仕事はときに残酷だ。
12月になれば、クリスマスだ、もうすぐ正月だと浮かれる世間を振り切って、年末進行というものに追われる。
作家さんはいわば自営業で、休みという休みはないのかもしれないけど、作家だって人間だ。既婚者であれば、互いの実家に新年の挨拶に行くこともあるだろうし、独身だってせめて楽しく年を越したい。
そうやって充実した年末年始を送るためには、この12月半ばから後半に円滑に仕事を進めなければならなくて、世間が浮かれる日は、こちらにとっては地獄に近しい。
けれど、今年のクリスマスは一人じゃない。浮かれているのは自分も一緒なのかもしれない。イルミネーションを横切るときも、心がずいぶん安らかだ。
「クリスマス、どこか行く?」
テレビを点け、漫画を読みながら声をかけてきた蒼佑くん。ほぼ毎日部屋にいて、どちらが家主なのかわからない状況に、くすっと笑みが漏れた。
「えっ、何? 何か面白いことでもあった?」
本を閉じて、座って座ってと、座布団を敷く。
なんでもないよ、と言うと、秘密にするのはなしだよー! とじゃれてくる。バカップルってこういうことか、と30間近にして何やら新鮮な気持ちになる。
「いや、なんかあたしんちか蒼佑くんちかわかんないなって思って」
ジャージにもそもそ着替えながら、トレーナーに首を通すと、頭にぐりぐり頬擦りをしてきた。なに? と見上げても、なんでもない、とにこにこ笑う。
「さっき秘密にするのなしって言ったのそっちじゃん!」
肩と肩をぶつけ合って、くすぐったい気持ちになった。すると、蒼佑くんの態度は一転して、もごもごと何かを隠しているように見えた。
「蒼佑くん?」
彼の顔をまじまじとのぞき込む。始めは顔を背けたりして、やり過ごそうとしているのがまるわかりで、おまけに誤魔化すようにふざけてキスしようとしてくるものだから、両手で彼の口を押し返した。