足踏みラバーズ
背が高く、黒くてトップと襟足が短めのショートカット。ちょっとだけツリ目なところは、本人は気にしているらしいが、すっきりとした顔立ちによく合っている。
まだあどけない子供っぽさが抜け切れていない同級生と違って、どこか大人びて見える。同じ制服を着ているはずなのに、おしゃれな着こなしをしているように見えていたり。
けれど、悪戯っ子みたいな笑い方は年相応そのもので、ギャップに魅せられる子もまわりたくさんいたように思う。
進級して、二年生になっても同じクラスになった。
夏休みが近くなると、「お前が他の男と仲良くしてんのヤなんだけど」と度々言われるようになったけれど、その真意を知ることもなく、同じクラスで向かいの家の賢二と一緒に帰宅していたある日。
「やべえ。それ俺のこと、けん制してるんじゃ……」
「何、どういうこと? 瑞樹に聞いてもさあ、「わからないならいい」って言うんだよ。昨日も似たようなこと、メールでも言ってくるから、無視しちゃったよね」
「うーん……」
「何、はっきりしないなあ」
「いや、俺から言っていいことかわかんないし」
「何だよー、みずくさいな。今さらなんか隠し事するとかずるいわ」
それでもなお、言葉を渋る賢二を見て、沸々と怒りさえこみあげてきた。
「もういいよっ。賢二に聞いたあたしがバカだった!」
「待てって。そうぷんぷんするなよ。悪い話じゃないかもよ」
「だから何が!?」
「それは瑞樹から聞けばいいよ。じゃあなー!」
ひとり腑に落ちたように、爽やかな賢二の笑顔がさらにイライラを募らせた。なんだよ、賢二のやつ。後ろから蹴りを入れてやろうか。
駆け引きの言葉も知らなかった高2の夏。瑞樹から直接想いを聞くまで何ひとつ、理解ができていなかった。
「俺とつき合えば」
はあ? と腑抜けた声が出た。いきなりどうした、クエスチョンマークが頭上に浮かび上がる。
「返事くんないの」
「ん? どういうこと……えっ」
「ふっ。間抜け顔。ブッサ」
「……冗談でそういうの言われても困るんですけど」
「はあ?」
「なによ」
「……冗談でこんなん言うわけねえだろうが。好きだって言ってんの。……ここまで言わせんなよ」