足踏みラバーズ
9
満開というには少し遅くなってしまった。
少しずつ花びらも散り始めて、緑の葉っぱが顔をのぞかせる頃、蒼佑くんの口から瑞樹の名前をよく聞くようになった。
しばしの間、なんとなく瑞樹の話題を避けていて、その後の二人の行く末が一番気にかかる不安材料だったから、本当に、ほっとした。
亀裂が入っていないのを確信したのは、私の家によく遊びに来るようになっていたからだ。
私が不在にしている間も、二人でごろごろしていたようだし、3人で鍋をつつくようにもなった。
始めは、ぎこちなさを感じていたけれど、本来、気の置けない友人だと私は思っている。高校の、同級生でもあるのだから。
思えば蒼佑くんと瑞樹は、私が二人の関係を知るよりずっと前から仲がいい。
外に飲みに行ったり、突然宅飲みに切り替えたり、そうするくらいには気心が知れていたのだと思う。
私がいることで、良くない方向に進むのであれば、今の状況も考え直さないといけないと思ったことも何度かある。
友達の好きな人を好きになった経験はない。友達の好きな人だとか、友達の彼氏だとか、「友達の何か」という関係を知ったら最後、蚊帳の外に追いやてしまうのが常になっていて。
……そんな経験、私の中にはないけれど。
兎にも角にも、私の目から見て二人の仲は良好のように感じられるし、「あんま気ぃ遣うなよな」とぽん、と頭に手を乗せた瑞樹に、「おれの彼女におさわり禁止!」と軽口を叩く蒼佑くんを見て、大丈夫だ、と思っていた。
「百合子!」
閉まりかけた扉の隙間から、久しぶりに目にした女性の姿が見えた。まだ閉まり切っていないエレベーターの「開」ボタンを急いで押して、エレベーターの扉を開けた。
「わ! 恵美、久しぶりだね!」
二人きりの貸し切り状態の箱の中で、きゃっきゃっと話し出した。
「久しぶりに飲みに行かない?」
「うん! もちろん! あ、でもあたし今日終わるの21時くらいになりそうなんだけど……」
それでもいい? と腕時計を見ながら恵美に問う。大丈夫、下で待ってる、と一時停止したエレベーターを降りて、手を振っていた。
ちょっと早く終われそうだ、と長針が6に差し掛かった頃、同僚に呼び止められた。
「佐伯さぁ〜ん」
「佐伯さんっ」
相田さんと、中島くんの二人だった。どうしたのと声をかけると、他社の漫画を一冊、勢いよく押し付けられた。