足踏みラバーズ



 こんなに赤面する瑞樹は初めて見た。顔を見られまいと、どうにか顔を背けようとする瑞樹を見て、動揺した。

なんでもいい、とにかく何か話さないと。焦る気持ちがさらに自分を追い詰める。



「……何か言えば」



 どもる私の気持ちを察してくれたのか、沈黙を打破してくれたのは瑞樹のほうだった。



「……、ごめん」

「俺、ふられるの?」

「……わかんない」



 人の気持ちを受け止めるには幼かった。気の利く言葉も、告白に対しても、すべて曖昧な言葉にしかならなかったことを、今でもよく覚えている。



「そんな顔すんなよ。泣かせたいわけじゃねえんだけど」

「……泣いてないけど」

「お前、俺のこと嫌いなの」

「嫌いではない、けど……」

「じゃあいいじゃん」

「でも」

「好きとかまだよくわからないって言いたいんだろ。知ってる、何回も聞いた」

「だったら……」



 煮え切らない答えしかできない自分自身がもどかしい。



「だからってふられるのはヤなんだけど。これから知っていくってのはだめなのかよ」

「瑞樹は、それでいいの」

「いいよ。このままだと始まりさえしなさそうだし」

「どういうこと」

「いや、いい。……とにかく、俺が、お前の特別だっていう証拠が欲しいんだ……けど。言わせんなよ……」



 尻すぼみになっていく言葉に、本気なのだと確信させられる。

ちょっぴり口が悪くて、大勢でつるむのを好まない。好き嫌いがはっきりしていて、小心者の自分と違いきっぱりとものを言う。

そんな瑞樹が、こんな、緊張の面持ちをするなんて思ってもみなかった。




 こんな言葉をもらえる日が来るなんて、とんだ絵空事だと思っていた。人が人を好きになるって、とんでもないことだ。

賢二も、奏恵も朱莉も冬子も。みんなみんな、こんな経験をしているのか。



「……返事、聞かせてよ」

「えっと、うん」

「……」

「……あの、じゃあ、その、瑞樹が嫌じゃなかったら……」



 この答えが正解なのかどうなのか、わからなかったから、蚊の鳴くような声になってしまった。けれど、瑞樹にはちゃんと届いていたようで。



「っ、まじか」

「まじです……」


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