足踏みラバーズ
太郎とA子は大学時代に出会い、結婚すべく順調に付き合いを重ねていた。特に喧嘩をするでもなく、それはそれは順風満帆に。
けれど、太郎には1つだけ気にかかることがあった。
A子が恋多き女性だということだった。
自分と付き合ってから、その様子を微塵も見せることはなかったが、それまでは男をとっかえひっかえしては、体の関係だけを繰り返すこともあったらしいという噂は耳に入ってきていた。
けれど、自分の目の前にいるA子はそんな不健康なことから手を切ったと、そんなふうに思っていた。いや、信用していたかった。
淡泊だとよく奥さんに馬鹿にされている太郎でも、それなりに性欲を発散したいと思うこともある。それに、そろそろ子供ができてもなんらおかしくはない歳だ、そろそろ子づくりに真剣に向き合っていいのかもしれない。
そんなことを考えて、珍しくベッドの中で先に眠るA子のワンピース型のパジャマの裾から覗く足を見たときだ。
自分以外が見るはずのない、恥部の近くに赤い痕が咲いている。
それも1つではない。ちらりと横目に見るだけでもいくつかの愛の印が散らばっていた。
それからというものの、口に出すことはなかったが、彼女のことを疑ってしまうようになっていた。既にこのときから、気持ちがA子から離れていたのかもしれない。