足踏みラバーズ
担任を任され奮闘していると、1人の女生徒が目に付くようになった。B子だ。
彼女は同じ歳の他の生徒に比べ、別段大人びているような子だった。
学生には三者面談、というものがついてまわる。自分の将来を決めるための、重要なものだ。
B子は普段から真面目で優秀な生徒であったが、この時ばかりはことごとく反抗的な態度を示していた。
親御さんの都合が悪ければ、日程をずらすこともできるのだから相談なさいと言っても頑なに口を閉ざす。
片親なのは担任だから知っている。そのせいで親が忙しいのも理解できる。
けれど困ったのは、B子が親御さんに面談のことすら伝えていなかったということだった。
何度言っても話そうとはしなかったが、一年後、担任という立場ではなくなったときにようやく話してくれた。
男と火遊びばかりするような親に相談する進路などない、と。
娘がいるにも関わらず、ご飯も作らなければ家事という家事は一切しない。
男を連れ込んでは身体を重ねる声が聞こえて忌々しいとさえ感じると。
だからか、こんなに大人のようなそぶりを見せるのは、と太郎は納得していた。
ある日、太郎はB子から告白される。彼女が高校三年生のときだった。
「先生、好きです。付き合ってください」
「……俺は結婚しているよ。それに君は生徒だ」
「そんなこと知ってます。だから、好きって言うの三年になるまで待ったの」
駄目だ、とB子の想いを断ろうとしたとき、「浮気してるような奥さんのどこがいいの」そんな言葉が耳に入った。
何を言っているんだと咎めるわけにもいかず、B子の話を聞き終えたとき、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
B子の母親が身体を重ねたその男は、A子ととも身体を重ねている、と。
生徒に自分の奥さんの紹介などしたことがない。写真を見せたこともない。
けれど、生徒にからかわれて、名前だけは教えたことがある。
それだけでB子が太郎の嫁だと確信する材料には少なすぎるように思う。
しかし生徒と言ってもB子は女性だ。何か鋭く察するところでもあったのかもしれない。
生徒と言う立場が足枷になるなら、卒業するまで、成人するまで待って、と懇願された。
その間もずっと先生のこと好きだから、と。