足踏みラバーズ



 相田さんはB子が幸せだと言っていたけど、最愛の人と一生交じわうことのない平行線の関係なんて、一般的な感覚だと苦行みたいなものじゃないだろうか。


不幸じゃないといったのは、自業自得であって、不幸なんて運のせいにするもんでもないよね、とチョコレートを舐めながら、行儀悪く説明した。




すると、わっと二人が拍手して、望んでいない盛り上がりを見せてしまって、フロアの視線が集中して、穴に入りたくなった。

余談だが、その本はのちに部署の皆に回し読みされることになった。









「賢二、結婚するんだってな」


 ご飯を頬張りながら、私に話しかける。



今日は、いつぶりか覚えていないくらい久しぶりに、3人で居酒屋でご飯を食べていた。

以前は瑞樹の隣に座っていた私が、今は当たり前のように蒼佑くんの隣に座っていて、時の流れを痛感した。




「賢二? 誰?」

「あたしの幼馴染」

「えっ! 初めて聞いた!」

「だって話すほど仲良くないもん。向かいの家に住んでるだけで」



 テンポの良い会話を噛みしめる。嬉しくなって、つい、お酒がすすむ。




 そうだ、招待状が来ていた。

約1か月後、ジューンブライドの6月に、幼馴染の賢二と中学時代の部活の後輩の女の子が、結婚する。



「いやー、春だねぇ」



 何を呑気なこと言ってんだ、と瑞樹に突っ込まれる。

すかさず、もう東京は初夏と言っても間違いではないよね、と蒼佑くんがさらに突っ込みを入れた。



「いつ返信したん」

「結構前? てかあたし受付やるから、招待状来る前にもう知ってたよ」

「あ、そうなん?」

「うん」



 地元と友人の結婚式の話題になって、むう、とむくれていた。

疎外感を感じさせてしまったことに、慌ててごめんと詫びを入れる。

すると、これから全部教えてくれたらいいよ、と頭を撫でられ、こくこく頷くと、よそでやってくれ、と野次が飛んできた。







 幼馴染と可愛がっていた後輩が、結婚する。

と同時に、昔つき合っていた男と女が顔を揃って門出を祝う式に参列することに、今の彼氏がぶうたれていた。




「別に一緒に行くわけじゃないんだから」



 まあまあ、と背中をポンポン叩いた。そうだ、とついでに早めの夏季休暇もとろうかな、と考える。




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