足踏みラバーズ
「あれっ、そうなの? 一緒じゃないの?」
「え、そうでしょ? 瑞樹何日に行くの」
「10」
「あれ、同じだ」
示し合わせたわけでもないのに、同じ日が移動日だと知って顔を見合わせた。
ますますふくれっ面になる蒼佑くんに、ひたすら頭を下げる。わざとじゃないと、必死に弁解した。
「つうか、」と口を開いた瑞樹から驚きの事実が告げられて、その日は蒼佑くんの機嫌が直ることはなかった。
怒りながらも、同じ家に帰ったのだけれど。
「お前10日誕生日だろ? いいのかよ」
「蒼佑くーん、ごめんって」
「……」
「自分の誕生日なんて忘れてたんだよー」
「……」
いくら謝っても機嫌は一向に良くならない。
今日は何を言っても無理かもしれないと早々に白旗をあげて、寝ることにした。先にベッドに入ってごろごろと、時間をつぶす。
蒼佑くんとつき合って初めての喧嘩だった。
嬉しいような、悲しいような、入り混じった感情がソワソワと落ちつかなくて、なかなか寝つけなかった。
暇つぶしに携帯で漫画を読んでいると、ベッドに入って2時間は経っていた。
寝られなくてずっと起きていたけれど、ちっとも蒼佑くんが寝室に来る気配がなくて、リビングに足を運んだ。
「……寝てる?」
ソファーに窮屈そうに横になっていた。
5月のこの季節は、既に夜も暖かい。
一日くらい、適当な場所で寝ても風邪はひかないと思うけれど、自分が怒らせておいてさらにはろくに悪びれもせず、思い返すといたたまれなくなって、自分だけベッドに悠々寝るのは気が引ける。
寝室から薄い布団を一枚ごそごそと運び出して、蒼佑くんを起こさないように、そっとソファーにもたれる。
寝るかと目を瞑ろうとしたとき、彼の携帯の画面が光を灯した。
それはよく見る蒼佑くんの級友だという子の名前。それ以上は気にも留めずに目を閉じる。
先ほどまで寝つけなかったのが嘘のように、すうっと眠りに落ちていった。
夜中に目を覚ますと、ベッドで寝ていたはずの彼女が、なぜかソファーにもたれかかって寝ている。
半開きの口から、涎が少し垂れていて、おまけに寝相の悪い彼女の足元に布団がくしゅくしゅたわんで落ちていた。
「風邪ひいちゃうよ」
足元の布団をかけ直そうとすると、ううん、と寝返りを打ち損ねて、眉間に皺が寄っていた。
そっと眉間を触ると、情けない顔になる。
ふ、と笑みを漏らして指を放すと、あどけない、子供みたいな寝顔になった。