足踏みラバーズ



 思っていた以上に百合子ちゃんと上手くやっている。

好意を持ったのは本当だ。もっと知りたいと思ったのも本当だ。

けれど、こんなに入れ込むとは思わなかった。







 彼女ができたら適当に家にあがることが多かった。

自分の好きなとき、好きなタイミングで、気まぐれという言葉がぴったりだ。



実家から出ないのも、体よく断る理由になるからだ。そんな自分が毎日のように彼女の部屋に入り浸る。

えっちをするわけでもなくて、特別な日でもなくて。何もないのに入り浸って、合鍵をポイと渡されて舞い上がったのは初めてのことだった。




いつもはそんな感情を抱くこともなく、浅くもなく、深くもなく、絶妙な距離感をとるのが得意だったはずだった。今はもう、その影すら見当たらない。






家族だって、実家暮らしの自分が家にいないのだから、それが何を意味しているのか理解していると思う。



今までも何度かあったけど、百合子ちゃんとつき合い始めてから、極端に家に帰る頻度が減った。この機会を待っていたかのように、いい人がいるのなら、一回くらい家に連れてきなさい、と言われて、真剣に悩んだ。

思い返せば、今まで誰一人として紹介したことなんてないな、と記憶を呼び戻す。そんな自分が、断れたら立ち直れないと、頭を抱える日が来るとは。




断られたら、そのまま別れる可能性だって無きにしも非ず。

慎重に時を見定めて打診しようと思っていたら、いつの日か半年近く経っていた。






誰かに言いたくて、でも両親には気恥ずかしくて言えなくて、弟だけにはこっそり百合子ちゃんの写メを見せた。

至って普通に彼女を紹介したつもりだったけど、「兄弟の惚気って世界で一番きもち悪い」と罵られた。

直後、「今までで一番趣味良いと思うよ」と辛口の弟に褒められて、なんだかいい気分になった。





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