足踏みラバーズ



 キスまでは、なんとか持っていくことができたけれど、それ以降に足を踏み入れることができなくて、AVで気を紛らわせるようになった。

一人で抜いて、画面の中の綺麗なオネエチャンで抜いて、何より百合子ちゃんの部屋の匂いで何回か抜いたこともある。

自分の行為だけど変態みたいでおぞましい。






そんなことをこそこそやっていたある日、結構綺麗好きなのだとわかった彼女が、これまた綺麗にDVDを並べていた。

焦って聞かれてもいない言い訳をペラペラ並べたら、一人の行為の後に出る、丸めたティッシュを見たと笑われた。




会心の一撃に、頭の中で並べた御託がはじけ飛んで、一気に陳腐な言葉が口から出た。



若くて青い、お粗末な言葉でえっちがしたいと遠まわしに言ったら、断られなかった。


調子に乗って本番に及んだら、腰を揺らすまでもなく達してしまった。童貞かよ……と落ち込む自分を尻目に、目尻を下げてけたけた笑っていて、早く達した日には、そこそこ回数をこなせることも知っている。



何回目かわからないけど、腰を打ちつけたら彼女からキスをされて頭が真っ白になった。

百合子ちゃんからキスをしてくれたのは初めてで、きっと雰囲気に流されたのだろうと思ったのだけれど、思った以上に胸が熱くなって、知らないうちに涙がぼろぼろ零れている。

気づいたら、好きだという言葉が口から漏れていた。






 百合子ちゃんと意外に趣味が合うことを知ったのもつき合ってからのことだ。


彼女の仕事を考えたら当然なのかもしれないけれど、趣味がそこそこ合うのも悪くない。気兼ねなく趣味に没頭できるし、文句も言われない。



波長が合うってこんな感じかと思ったのもこの時だ。

言葉遣い、会話のテンポ、声のトーンに、ときたま入る合いの手。



隣に座ったときの距離感だとか、何も考えずに間接キスで回し飲みするとか。やること全てが自分のツボにはまる。




ちょっとした口喧嘩、というよりも言い争い、みたいな感じになった場合も、悪いと思えば百合子ちゃんはすぐ謝ってくる。



折れるのは、男の役割だと思っていた。

女は口先だけで詫びを入れて、腑に落ちない、という顔を平然としてくる。



やるなら最後までやり通せよ、と思うけど、女優じゃない女に求めることではない。その点彼女はわかりやすいし、今まで嫌っていた女の下手な演技も見てみたいとさえ思う。





< 99 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop